当該研究の目的は、病原性復帰ムンプスウイルス (MuV)で見出されたV/P及びL遺伝子内の2つの変異が病原性復帰をもたらす機構を解明することでMuVの病原性発現の分子基盤を明らかにすることにある。これまでの研究で、病原性復帰は主にV/P領域内の変異によること、この変異はV蛋白質の持つインターフェロン産生阻害機構に影響しないこと、P蛋白質の機能であるゲノムの複製や転写にも影響しないこと、また、各ウイルス蛋白質の細胞内局在にも影響しないことが分かった。従って、現時点で病原復帰の機構は不明である。 昨年度次世代シーケンサ(NGS)解析で見出された、rY213oriに反映されていない元株Y213のL遺伝子内の2ヶ所の変異の内の1つをrY213oriに導入した組換えウイルスrY213m1を作出し、ラットモデルで評価したところ、rY213oriよりも有意に中枢神経病原性が高かった。よって、Y213の高病原性の原因の1つは、L遺伝子内の変異に因ることが示された。 また、ワクチンによる水平感染例由来株(HTDV)3株についてもラットで評価したところ、元のワクチン株より中枢神経病原性が高い傾向を示した。HTDVはいずれもL遺伝子内に変異を持つことから、この変異が影響している可能性が示唆された。さらに、HTDVの出現機構を解明するため、元のワクチンについてNGSによるバリアント解析を行ったが、HTDVに見出された変異は検出されなかった。よって、HTDVは接種後に体内で変異を獲得したと推察された。 これまでの結果から、MuVの病原性発現機構にはV/P及びL遺伝子が深く関与していることが示唆された。そこで、高病原性rOdate株のL遺伝子内に、主に中枢神経組織でのみ発現するmiRNAの相補的配列を導入したところ、中枢神経病原性が著しく減弱し弱毒化しており、L遺伝子の病原性への強い関与が立証された。
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