胎児胎盤の11βHSD2活性が胎児発育に与える影響を調べるため、初年度は137名の新生児を対象に、胎盤における11βHSD2活性として過去の報告から臍帯血コルチゾール/コルチゾン比(F/E比)を代用し、出生時体格との関係をSGA児とAGA児とで比較検討した。結果は、SGA児において有意に臍帯血コルチゾール値とF/E比が高い結果であった。これはSGA児において、胎盤11βHSD2活性が低い可能性を示唆した。 しかし、臍帯血F/E比が胎盤11βHSD2活性を反映しているか証拠がなく、2年目は30人の新生児を対象に、胎盤11βHSD2活性を胎盤におけるHSD11B2遺伝子発現で評価し、胎児発育との関係を検討した。また、対象のうち22人で出生直後の尿中コルチゾール/コルチゾン代謝物比(以下尿中F/E比)を測定し、胎盤11βHSD2活性の指標になり得るかを評価した。結果は、胎盤HSD11B2遺伝子発現はSGA児で有意に低く、尿中F/E比はSGA児で有意に高かった。しかし両者には相関を認めず、生直後の尿中F/E比は胎盤11βHSD2活性の指標とはなり得ず、胎児自身の11βHSD2活性を反映すると考えられた。 最終年度はさらに検体数を増やして検討し、性差の有無も検討した。 計150人の新生児を対象に、HSD11B2遺伝子発現および尿中F/E比と胎児発育との関係を検討した。結果は、胎盤HSD11B2遺伝子発現はSGA児で有意に低く、出生体重のSDSと出生頭囲のSDSとそれぞれ正相関した。男女別の比較では、胎盤HSD11B2遺伝子発現は女児にのみSGA児で有意に低かった。また、各体格との相関は女児においては出生体重SDS、出生時頭囲SDSで胎盤HSD11B2遺伝子発現と正相関した。尿中F/E比はSGA児で有意に高かく、男女別の比較では、女児にのみその傾向を認めた。 以上から、胎盤11βHSD2と胎児11βHSD2はそれぞれ独立して胎児発育に関与し、SGA児では胎盤と胎児の両者で11βHSD2作用低下していいた。これは特に女児においてその作用が強いことが示唆された。
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