研究課題/領域番号 |
24591603
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
太田 健一 香川大学, 医学部, 助教 (50403720)
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研究分担者 |
竹内 義喜 香川大学, 医学部, 教授 (20116619)
三木 崇範 香川大学, 医学部, 准教授 (30274294)
鈴木 辰吾 香川大学, 医学部, 助教 (50451430)
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キーワード | 母子分離 / 学習障害 / 脳発達臨界期 / GluR1 / CaMKIIα |
研究概要 |
母子分離ストレスが成熟後の学習障害及び精神疾患を引き起こす分子機序を解明するために、脳発達臨界期の神経回路網形成に極めて重要な因子に着目して詳細な解析を行った。母子分離モデルは前年度に引き続きSprague-Dawleyラットの仔を母獣より個別に分離して作製し、その脳を臨界期を含む脳発達期で採取しウェスタンブロットにて解析した。生後7日齢ではグルタミン酸受容体であるNR2A受容体、AMPA受容体サブユニットであるGluR1, GluR2の発現量が減少していた。また神経回路網の成熟に重要なアストログリアのマーカーであるGFAP、及びそれが放出する栄養因子であるS100βも減少しており、更に神経栄養因子であるBDNFも減少していた。このような脳発達の遅延を示唆する結果が認められる一方で、生後7, 10日齢ではCaMKIIα及びGluR1が過剰なリン酸化状態にあることが分かった。このような変化は14日齢以降では認められず、脳発達臨界期ともいえる神経回路網形成に重要な時期に一過性な変化であった。またこのモデルの成熟ラットを用いて広範な行動解析(elevated plus maze, three chamber social test, resident-intruder paradigm test)を行った所、不安様行動の増加、社会性低下、攻撃性増加が認められた。また学習試験(Radial maze test)に関しても一度覚えた餌の位置を変えた後の記憶消去と再記憶に異常があることが示唆された。 前年度の結果も合わせて母子分離によるストレスは様々な学習能及び精神疾患に関連した行動に影響を与える事が分かった。更に神経回路網形成に重要な時期において一過性の発達遅延が認められる一方で、シナプス形成に関与する因子が正常に比べて過剰な活性状態にありアンバランスな脳発達が引き起こされていると考えられる。このような発達期一過性の異常を解明する事は、理解し難い成熟後の学習障害や精神神経疾患の機序を解明する一助になりうるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度予定していた学習試験前後における海馬歯状回の神経新生解析及び抑うつ行動の解析はやや遅れている。その理由は前年度の母子分離モデルにおける学習障害の分子機序について脳発達臨界期に着目し、関連因子の詳細な解析を優先する意義が十分にあると判断したためである。これに関しては本年度に十分な成果を得ることができている。またこれらの結果は更に詳細な解析をする意義を有した発展性があるものであり、母子分離モデルの行動異常の分子機序が脳発達臨界期の一過性でアンバランスな脳発達に起因する可能性を示唆するものである。脳発達期における神経/シナプス可塑性の高さを考慮するとこのような異常は神経回路網の形成/刈込みに影響を与えうるものであり成熟後まで持続した恒久的な影響 (例えば興奮/抑制バランスの崩壊)をもたらす可能性があり学習能だけでなく様々な精神疾患にも影響を与えうるものである。これらの点から分子機序解明という点では十分な進展が認められる成果を得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、前年度の結果を受けて成熟後の母子分離モデルの脳解析を更に詳細に行う。既に得られている脳サンプルを用いて学習試験前後における海馬歯状回の神経新生を解析する。また成熟後の脳サンプルをシナプトソーム/シナプソトソーム膜画分にまで分けてAMPA受容体のサブユニットであるGluR1及び興奮/抑制バランス (VGLUT1/VGAT比)を中心に蛋白質発現の解析を行う。これらの解析によって平成25年度に認められた臨界期の一過性でアンバランスな脳発達が成熟後にもたらす影響を明らかにし行動異常との関係解明を目指す。またこれらに加えて強制水泳試験による抑うつ解析も追加して行い、学習能のみではなく精神神経疾患への脆弱性についても平成25年度に得られた行動解析結果と共に検討を行う。
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