研究課題
基盤研究(C)
胎児心拍数陣痛図(CTG)における胎児心拍数(FHR)の時系列データを対象として、計量経済学の分野で長期的な経済変動や政策による変動要因を明らかにしてきたパネルデータ分析を手法を導入する研究を行った。ここではガイドラインに沿って分類されたFHRパターンデータについて、パネルデータ分析の手法が有効かどうかを検討した。この手法の有効性が確認されると、分娩時のCTGデータを要約されたパネルデータとして集約することで、医師による個別判断のばらつきは統計誤差となり、臍帯動脈血ガス分析値などをアウトカムデータとするEBM(Evidenced-based Medicine)の基本的手法になると考えられる。今年度は、一産科診療所において低リスク分娩となった1909例のCTGデータを対象とした。専門医がこのFHR波形パターンを分娩60分前から10分ごとに134種類に、胎児に対する警戒レベルを5段階に分類したデータを時系列上にパネルデータとして並べ、分娩直後の臍帯動脈血ガス分析値のpH、BE(Base excess)、PaO2、PaCO2をアウトカムデータとする構成をとった。このパネルデータに対してFHR波形分類データの分娩に至るまでの挙動を解析的に把握することで、方法論としてのパネルデータ分析の手法の確立をめざした。特にFHRパターンの基本要素である基線(baseline)、基線細変動(variability)、一過性徐脈(deceleration)と 臍帯動脈血ガス分析値のpH、BE、PaO2、PaCO2との関連性、および5段階の警戒レベルとの関連性を明らかにした。さらに、CTGデータのパネルデータ化を進めるために、産科専門医がFHRパターン分類をPC上で行うためのWebBrowserを利用したCTG表示ソフトウェアの開発を行い、そのプロトタイプを完成させた。
3: やや遅れている
FHR時系列データをある時間区分ごとに区切り、その区間毎のパターンを代表値としてパネルデータを構成する方法により、1つの分娩での長時間にわたるCTG時系列データをパネルデータとして集約するメリットが明らかになった。そのため、多くの分娩でのCTGデータをパネルデータとして集約し、アウトカムデータによる評価まで行えるEBM (Evidenced-based Medicine)の確立への道筋が見えてきた。ただし、FHR時系列データを各区分毎にパターン分類してパネルデータ化する方法は、現時点では医師の視覚的判断に依存しているため、この部分のゆらぎをどのように評価し対策をとるかについての取り組みを始める必要が出てきた。また、CTGデータのパネルデータ化を進めるために、WebBrowserを利用したCTG表示ソフトウェアの開発を行っているが、プロトタイプが完了した段階である。そのため、これを利用してコンピュータ上で医師がパターン分類行い、それを記録してパネルデータ化するCTG評価システムの開発に遅れが生じ、国立循環器病研究センターに蓄積されたCTGデータの医師による判読結果のパネルデータ化に遅れを生じている。ここには正常でない症例データが数多くあるため、パネルデータ分析の次のステップに欠かせないことから、このシステム開発に力を入れていきたいと考えている。
これまでの研究成果を踏まえ、1)パネルデータ特有の解析法とそれによる成果の確立:パネルデータ解析やクロス集計表について経済・社会学などでよく行われる、例えばコレスポンデンス分析などの手法が有効かどうかの検証を行う。2)FHR波形パターンと警戒レベル分類による影響の検討:FHR波形分類と警戒レベル分類のどのような組み合わせがアウトカムとしての臍帯動脈血ガス分析値との関連性が最大になるかをシミュレーションし、警戒レベル分類のFHR波形分類への割り当てについての最適解を求める。3)これまでのFHR波形分類の変遷の評価:134分類されたFHRパターンから日本産科婦人科学会が標準化した82種類の分類パターンに至るFHRパターンの分類についての比較検討を行う。これにより、両分類間の差異と特徴を抽出することで、どのようなFHR波形分類が望ましいかの方向性を得ることを目指す。4)国立循環器病研究センター周産期・婦人科に蓄積されたCTGデータのパネルデータ化とその解析:保存されたCTGデータを分娩開始から分娩に至るまでを10分毎にFHR波形分類と警戒レベル分類の判読を行い、臍帯動脈血ガス分析値のpH、BE値、PaO2、PaCO2をアウトカムデータとしてパネルデータ化して解析する。また、この中の正常例を集め1909症例群との比較を行うことで、正常例についてのパネル分析の妥当性を検討する。5)症例群別のパネルデータ分析:心疾患合併妊娠など母体と胎児の先天性疾患などの症例毎に分けてパネルデータ分析を実施する。これは異常症例についてのFHR波形分類と警戒レベル分類の組み合わせは正常例と同様でよいのかどうか検討の必要があるためである。ただし、集まる症例数の数によっては解析ができない場合もあると考えられる。
パネルデータ分析について計量経済学の分野でよく利用され、Web上にも解説が多数存在するソフトウェアとしてEViewsを導入し、当初の計画ではこれでパネル分析手法の習得と予備的解析を行う予定であった。また、EViewsはグラフ機能があまり十分ではないこと、および医学系ではあまりなじみのないソフトウェアであるため、医学系でよく利用されているJMP、および作成したグラフをExportしたEPSファイルをハンドリング可能なグラフィックソフトを導入予定であった。しかし、EViewsを使いこなし解析するのに予想以上に時間がかかったため、その後のソフトウェア導入を次年度に繰り越さざるを得なかった。今後、それらのソフトウェアを導入してパネル分析による解析からグラフ化までをスクリプトとして開発する予定である。また、周産期専門医がコンピュータのディスプレイに表示されたCTGデータを見て、そのFHR波形分類と警戒レベル分類を行うシステムを稼働させる予定で、ネットワークを介してそれを実施するためのノートPCの予算を計上している。
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