研究課題
これまでに音声刺激に対する特定の脳領域の脳反応について研究を進めてきた。近年、非侵襲的脳機能計測技術の発展に伴い、脳領域の機能的結合が評価されるようになってきた。今年度は、正期産児における単語中の音韻・韻律に対する脳領域の機能的結合を、近赤外分光法を用いて、血行動態指標により検討した。当院で出生した日齢7以下の正期産児を対象とした。刺激として、単語レベルの音韻対比と抑揚対比の2条件の合成音声を用いた。ベース音声を提示した後に、比較刺激として各2条件を提示し、側頭・前頭部におけるヘモグロビン(Hb)の変化量を光トポグラフィ装置ETG-4000を用いて計測した。そして、左側頭部内・右側頭部内・前頭部内での領域内の機能的結合と、左側頭部と右側頭部と前頭部間での領域間の機能的結合を解析した。【結果】在胎37週以降に出生した正期産児19名が対象となった。平均出生週数は39.1週、平均出生体重は3037.2g、検査時日齢は2から7日であった。左側頭部内と右側頭部内と前頭部内では、相関係数はそれぞれ0.52、0.55、0.57で、機能的結合に有意差を認めなかった。左側頭部と前頭部、右側頭部と前頭部、左側頭部と右側頭部では、相関係数はそれぞれ0.37、0.38、0.39で、機能的結合に有意差を認めなかった。正期産児において、音韻・抑揚刺激に対する機能的結合は、領域内と領域間のいずれにおいても認められたが、領域内で有意に多い結合がみられた。日齢7以下の正期産児では、効率的な機能的結合は行われていない可能性が示唆された。本研究成果の発展は、脳室周囲白質軟化症のメカニズムを明らかにできる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
新生児の音韻・抑揚に対する特定の脳領域の脳反応については、正期産児と早期産児についての解析が順調に進み、論文を投稿中である。さらに脳領域の機能的結合についての解析もおおむね順調に進展している。また、新生児の母親声と非母親声に対する脳反応の研究も進められている。正期産児、早期産児共に、解析がおおむね順調に進んでおり、来年度さらに研究を発展させることが出来る。
本研究は順調に進展しており、現在の研究を継続していくことが、成果の発展へと結びつく。今後の研究計画としては、大きく3つの目標があり、1)NIRSを用いた言語の抑揚・音韻に対する脳反応を比較するための早期産児とPVLにおけるデータの解析の継続、2)平成25年度でデータが得られた、脳領域の機能的結合の解析と母親声と非母親声に対する脳反応の解析を進めること、3)PVLモデルの作成と解析である。1)平成25年度で正期産児と早期産児における言語の抑揚・音韻に対する脳反応の解析が進んだため、論文発表をする。また引き続きPVLの脳反応の解析も続けていく。2)早期産児について、母親声と非母親声についての解析と脳領域の機能的結合についての解析を進め、それぞれの脳反応について発達を調べる。そして、PVLの脳反応と比較することで、脳機能障害のメカニズムを探る。3)NIRSで得られた知見を、細胞や組織レベルで評価するため、PVLモデルの作成を進める。
今年度の研究を確実に遂行するためには、当初は人件費の支出が必要と考えられた。しかし、現在の環境を最大限に生かすことで、研究遂行がおおむね順調に進んだため、不必要な人件費の支出は中止した。また、予定していた学会へ都合により参加できなかった。そして、効率的な物品調達を行った。そのため、次年度使用額が発生した。来年度は、研究をさらに発展させるため、人件費の支出が必要となってくる。また物品費などが当初の計画より増加する。次年度使用額は、NIRS実験関連消耗品、ソフトウェア、試薬等を購入するために用いる。
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J Neuroimmunol.
巻: 260 ページ: 107-16.
10.1016/j.jneuroim.2013.03.003.