これまでに、正期産児における単語中の音韻・韻律に対する脳領域の機能的結合について研究を進めてきた。今年度は、正期産児における母親声に対する脳領域の機能的結合について、近赤外分光法を用いて検討した。当院で出生した日齢7以下の正期産児を対象とした。刺激として、児の母親による朗読音声(母親声)と未知の女性による朗読音声(非母親声)を提示した。光トポグラフィ装置ETG-4000を用いて、大脳皮質の左右側頭部12CHと前頭部22CHで酸素化ヘモグロビン濃度(oxy-Hb)変化を計測し、有意な脳反応を示す脳領域を調べた。さらに、有意な脳反応を示す脳領域について、位相同期性を用いて機能的結合を検討した。対象となった正期産児は37名、平均在胎週数39週2日、平均出生体重3084g、平均検査時日齢4.6日であった。母親声においては、刺激提示後3~6秒程度で左右側頭部と前頭部のoxy-Hbが有意に下降したが、非母親声においては有意なoxy-Hb変化を持つCHはほとんど認められなかった 。母親声では、非母親声に比べて有意に強い脳反応が背側前頭前野のCHで認められたため、当該CHと他の脳部位との機能的結合を調べた。その結果、母親声での背側前頭前野と左聴覚野近傍の機能的結合は非母親声に比して有意に減少し、背側前頭前野と背外側前頭前野の機能的結合は有意に増加した。正期産児では、母親声において、非母親声と比べて背側前頭前野で有意に大きい脳反応を認めた。さらに、母親声においてのみ脳領域で複雑な機能的結合が存在することが示唆された。本研究の発展は、脳室周囲白質軟化症における認知・発達メカニズムの解明を明らかにできる可能性がある。
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