研究概要 |
【目的】「母獣のCa欠乏は胎児にエピジェネティクス変化を与え、仔が成獣となった段階でメタボリックシンドローム発症の一因になる」私共の実験結果をもとに、出産した母獣と授乳した母獣のCa欠乏が、仔の将来のインスリン抵抗性におよぼす影響について検討した。 【方法】1)12週齢のWistar雌ラットを2群に分け、正常飼料(C)とCa欠乏飼料(D)で飼育し、正常飼料雄ラットを交配させ、出生した仔を4群に分け、21生日まで保育させた;DD, DC, CC, CD (はじめの文字が生んだ母獣、2番目の文字が哺乳の母獣)。離乳期からは正常飼料を与え、生後200日に、体重、血圧、脈拍を測定後、断頭で採血し肝臓を摘出した。肝臓からmRNAを抽出し、11β-HSD1のmRNA特異的プライマー対を用いてリアルタイムPCRを行った。分離凍結した血清で、後日アディポサイトカインとインスリン抵抗性の指標となる血液マーカーを測定した。 【結果】1)出生時および生後21日の体重に各群で差は認めなかった。2)生後200日における4群の血圧、心拍数、血糖に有意差はなかったが、雌雄ともDCの体重は有意に重かった。3)低Ca母獣からの仔(DDとDC)は雄のみ、血清インスリンが高値で、HOMA-IRは有意に高かった。4)雄DDは11β-HSD1のmRNA発現は低かった。 【結論】低Ca母獣からの雄仔は、インスリン抵抗性を獲得している。また生んだ母獣と異なるCa栄養状態の里親に授乳保育された仔は、出生と授乳が同じCa栄養状態の母獣に養育された仔に比べて、11β-HSD1の発現が亢進した。以上より、母獣のCa欠乏は胎児にエピジェネティクス変化を与え、胎児期に設定されたプログラムにミスマッチした母獣に授乳保育されることは、成獣の段階でメタボリックシンドローム発症の一因になると考えられる。
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