研究課題/領域番号 |
24591616
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
中村 浩幸 独立行政法人国立成育医療研究センター, 母児感染研究部, 室長 (70256866)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 母子感染症 / サイトメガロウイルス / 神経障害 / 人工多能性幹細胞 |
研究概要 |
本年度は、まずヒト線維芽細胞株より樹立されたヒトiPS細胞を用いて神経幹・前駆細胞を作製した。この細胞は、神経幹・前駆細胞に特徴的なマーカー分子を発現していた。また、作製されたiPS細胞由来神経幹・前駆細胞は、自己複製能および分化能を保持していることを示すデータが得られた。 次に、ヒトiPS細胞およびiPS細胞由来神経幹・前駆細胞に対してCMV感染を試みた。その結果、両者でCMV遺伝子産物の発現様式が大きく異なっていることが確認された。すなわち、ヒトiPS細胞ではCMV前初期遺伝子産物IE1/IE2の検出が極めて困難であった。この結果から、ヒトiPS細胞では、CMV感染感受性が低下している、あるいはCMV遺伝子発現が起こりにくい細胞環境が存在するなどの可能性が示唆された。一方、神経幹・前駆細胞ではCMV感染が成立し、IE1/IE2を含め多様なCMV遺伝子産物の検出が可能であった。この結果から、神経幹・前駆細胞にCMVが感染するとCMV複製サイクルが誘導されることが示唆された。また、CMVが感染した神経幹・前駆細胞では細胞形態変化が観察された。この細胞形態変化は、カスパーゼ活性化をともなう細胞死によるものと推定された。 これらの結果は、CMVがiPS細胞由来神経幹・前駆細胞に感染し、細胞死をともなう細胞障害を引き起こすことを示すものである。iPS細胞由来神経幹・前駆細胞を用いたCMV感染モデルは、神経幹・前駆細胞に対するCMV障害機構を今後さらに詳細に解析し、CMV感染による細胞障害を阻止する新たな手法を見出す上でも有用な感染モデルと考えらえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトiPS細胞およびiPS細胞由来神経幹・前駆細胞を作製し、CMV感染実験が可能となっている。その結果、神経幹・前駆細胞に対するCMV感染の影響を解析するためのCMV感染モデルが確立された。この感染モデルを用いて得られた知見として、CMV感染感受性やCMV遺伝子産物発現様式がiPS細胞とiPS細胞由来神経幹・前駆細胞とでは大きく異なること、CMVによる神経幹・前駆細胞障害機構の一部が明らかになったことなどが挙げられる。 一方で、神経幹・前駆細胞からさらに分化を誘導してニューロンやアストロサイトなどを効率的に作製する実験系の確立が未完成である。神経幹細胞用培地からbasic Fibroblast Growth FactorおよびEpidermal Growth Factorを除いた培地を用いて神経幹・前駆細胞を長期間培養することで、beta-III tubulin陽性のニューロン様細胞を作製することに成功した。今後は、培養条件を改良することで、iPS細胞由来神経幹・前駆細胞からニューロンやアストロサイトなどをさらに効率よく作製できるよう取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
iPS細胞を分化させることで得られたヒト神経幹・前駆細胞を用いてCMV感染モデルを確立している。この感染モデルによって、神経幹・前駆細胞に対してCMVを感染させることで感染細胞にどのような影響が出るのかについて、遺伝子発現解析、生化学的解析などを進める予定である。また、CMV感染神経幹・前駆細胞においては、CMV前初期遺伝子から後期遺伝子まで多様なCMV遺伝子発現が観察され、CMVウイルス複製サイクルが活性化していることが推測される。そのために、ガンシクロビル等抗ウイルス薬等の有効性をこの感染モデルを用いて今後検証する予定である。さらに、神経幹・前駆細胞にCMVが感染することで、カスパーゼ活性化にともなう細胞死を誘導している可能性が示された。そのため、カスパーゼ阻害剤等を用いて、CMVによる細胞死誘導経路の解析をさらに進める予定である。また、神経幹・前駆細胞から効率的にニューロンやアストロサイトに分化誘導する培養条件の検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
神経幹・前駆細胞の細胞死誘導機構の解明および細胞障害阻止するために抗ウイルス薬やカスパーゼ阻害剤等を用いて、今後さらに生化学的解析を行う予定である。また、神経幹・前駆細胞からニューロンやアストロサイト等を分化誘導によって効率よく作製するための培養法を確立する予定である。そのため、細胞培養関連試薬類および生化学的実験に使用する試薬類、および細胞培養等各種実験に必要な消耗品の購入に研究費を使用する予定である。
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