研究課題
基盤研究(C)
リンパ流の障害が腫瘍免疫や血管炎にどのような影響を与えるのか、これまでマウスを用いた研究はほとんどなされていない。カポジ肉腫ウイルス遺伝子をリンパ管内皮細胞に発現したマウスはリンパ管が存在するもののリンパ流が障害されており、リンパ浮腫や胸水の貯留を来す。このマウスを用いて、本年度は腫瘍免疫におけるリンパ流の役割について解析した。これまでのプロジェクトにおいて、腫瘍負荷したマウスのリンパ節を確認したところ、リンパ流に障害があるマウスではリンパ節への腫瘍の転移を認めず、リンパ節でのTNF-αやIFN-γの産生も、野生型マウスと比べて著しく低下しているというpreliminaryなdataが得られていた。本年度は実験マウスの数を増やし、この事実を確認した。次にルシフェラーゼ遺伝子を導入したB16メラノーマ細胞を用い、所属リンパ節への流入した腫瘍細胞を定量化した。予想通り、リンパ流に障害があるマウスの皮下にメラノーマ細胞を注射した後のリンパ節では、野生型マウスのリンパ節と比べてルシフェラーゼ活性が低下していた。興味深いことに、皮膚で形成された腫瘍の大きさとリンパ節のルシフェラーゼ活性には負の相関があり、所属リンパ節に腫瘍細胞が流入するほどリンパ節での抗腫瘍免疫が成立し、皮膚での腫瘍形成が進まないと考えた。さらにメラノーマ細胞を皮膚に注射した後にリンパ節を採取し、単離したCD8陽性細胞とB16メラノーマ細胞を共培養してCTL assayを行った。リンパ流に障害があるマウスのリンパ節から単離したCD8陽性細胞のほうがcytotoxicityが低く、抗腫瘍免疫が低いことをin vitroで直接示した。このように腫瘍細胞のリンパ節への流入は、リンパ節転移というリスクがあるものの、効果的な腫瘍免疫を成立させ、皮膚での腫瘍形成の抑制という負のフィードバックに貢献していることを示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は腫瘍免疫、血管炎、乾癬様皮膚炎におけるリンパの役割を明らかにすることである。具体的には、リンパ流に障害のあるマウスを用いて、腫瘍細胞を皮膚あるいは静脈内に注射する腫瘍免疫モデル、逆アルサス反応による血管炎モデル、イミキモッド塗布による乾癬様皮膚炎モデルを用いて解析を行う。本年度は腫瘍免疫に関する研究を行う予定であったが、リンパ流の障害によって腫瘍細胞がリンパ節に行かないと、効果的な腫瘍免疫が成立せず、皮膚での腫瘍形成を抑制できないことを示すことができた。現在成果を英文誌に投稿準備中であり、おおむね順調に進展していると考える。
来年度はリンパ流の血管炎に対する影響を評価する。血管炎は逆アルサス反応を用いる.抗ニワトリ卵白アルブミン抗体を皮内に打ち、その後ニワトリ卵白アルブミンを尾静脈に注射して、皮膚の浮腫、出血の計測や血管炎の組織学的検討、サイトカイン発現の検討などを行う。
該当なし
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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