研究課題
リンパ流の障害が腫瘍免疫や血管炎にどのような影響を与えるのか、これまでマウスを用いた研究はほとんどなされていない。カポジ肉腫ウイルス遺伝子をリンパ管内皮細胞に発現したマウスはリンパ管が存在するもののリンパ流が障害されており、リンパ浮腫や胸水の貯留を来す。このマウスを用いて、本年度は腫瘍免疫と血管炎におけるリンパ流の役割について解析した。リンパ流に障害があるマウスの皮下に腫瘍細胞を注射した場合、所属リンパ節への腫瘍細胞の流入が低下しており、所属リンパ節から単離したCD8陽性T細胞はin vitroでのcytotoxicityが低いことを昨年までに明らかにした。本年は、担癌マウスのリンパ節から単離したCD8陽性T細胞を野生型マウスに静脈注射し、その後に腫瘍細胞を皮下注射した。リンパ流に障害があるマウス由来のCD8陽性T細胞を注射したマウスより、野生型マウス由来のCD8陽性T細胞を注射したマウスのほうが腫瘍形成が抑制されており、リンパ流の障害によって効果的な腫瘍特異的CD8陽性T細胞の成立が阻害されていることを見出した。また、抗ニワトリ卵白アルブミン抗体を皮内に注射した後、ニワトリ卵白アルブミンを尾静脈から注射して血管炎を作成した。リンパ流に障害があるマウスでは、惹起6時間後の浮腫、出血などの血管炎所見は野生型マウスよりも軽度であったが、惹起24時間後の血管炎所見は野生型マウスよりも激しく、炎症が遷延していることが示唆された。この研究の成果から、下肢などのリンパがうっ滞しやすい部位では、血管炎の反応が遷延することが予想される。実際、血管炎を罹患した患者では潰瘍や神経炎を下肢に生じることが多く、臨床における観察に合致すると考えた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は腫瘍免疫、血管炎、乾癬様皮膚炎におけるリンパの役割を明らかにすることである。具体的には、リンパ流に障害のあるマウスを用いて、腫瘍細胞を皮膚あるいは静脈内に注射する腫瘍免疫モデル、逆アルサス反応による血管炎モデル、イミキモッド塗布による乾癬様皮膚炎モデルを用いて解析を行う。腫瘍免疫に関する研究は本年度中に終了し、現在成果を英文誌に投稿中である。また、逆アルサス反応による血管炎モデルについては、リンパ流に障害があるマウスでは遷延するという実験結果が出ており、今後はメカニズムについてさらに検討予定である。乾癬様皮膚炎についても実験準備を始めており、おおむね順調といえる。
逆アルサス反応による血管炎モデルについては、皮膚において発現しているサイトカインを確認するとともに、腹腔において逆アルザス反応を行い、浸潤細胞の相違を検討する。これらの実験によって、リンパ流の障害と血管炎の遷延を結び付けるメカニズムを解明する。乾癬様皮膚炎についても実験を開始し、リンパ流とTh17優位の免疫反応の関係を検討していく。
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