研究課題/領域番号 |
24591635
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
桜井 敏晴 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (20101933)
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研究分担者 |
谷口 智憲 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (40424163)
河上 裕 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (50161287)
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キーワード | 悪性黒色腫 / センチネルリンパ節 / 免疫抑制 / がん免疫療法 / TGF-β |
研究概要 |
本研究は、悪性黒色腫により誘導されるセンチネルリンパ節(SLN) の免疫病態の誘導機構と免疫病態の解明、および病態改善のための治療標的の探索を目的とする。 昨年度の研究で、がん微小環境でのTGF-β1増加は、T細胞を介し腫瘍増殖を促進する可能性が示されたため、その機序の解析を、本年度は行った。TGF-β強制発現がん細胞株CT26-TGF-β1をBalb/cに移植すると、その腫瘍組織内では、樹状細胞(DC)の数、MHCクラスIIと副刺激分子CD80の発現が抑制され、免疫抑制活性をもつ制御性T細胞(Treg)や骨髄由来免疫抑制細胞(MDS)が増加し、CD8+T細胞の浸潤は減少していた。一方SLN内では、CT26-TGF-β1移植群においてMDSCやTregの数の増加、DCのPD-L1の発現亢進、CD80やTNFαの発現低下、T細胞刺激能の低下が認められた。さらに、SLNでは腫瘍抗原特異的なT細胞の誘導も抑制されていた。以上より、がん微小環境におけるTGF-β1の増加は、DCの機能低下や免疫抑制性細胞の増加により腫瘍組織とSLNで免疫抑制状態を形成し、結果的に抗腫瘍CD8陽性T細胞誘導の減弱やCD8+T細胞の腫瘍浸潤が低下すること、さらに、TGF-β1は、がん治療の効果増強のための標的となり得ることが明らかになった。本成果は論文投稿中である。 さらに、本年度は、様々な薬剤が免疫抑制的なSLNの免疫抑制状態を改善できるかを検討した。その結果、チロシンキナーゼ阻害薬、ホルモン受容体阻害薬などが、in vivoにおいて、SLN内での腫瘍抗原特異的T細胞応答を回復させることが分かり、今後その詳細なメカニズムを解析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、TGF-β1のSLNや腫瘍組織での免疫抑制の詳細なメカニズムが腫瘍マウスモデルを用いて検証でき、論文投稿まで至った。さらに、SLNの免疫抑制に関与する新たな分子とそれに対する阻害薬による免疫抑制回復法の検証を行った。次年度は、その詳細なメカニズム、及びヒト検体を用いた解析を行う予定である。以上より、おおむね当初の計画通り進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は、本年度新たに発見したチロシンキナーゼ阻害薬、ホルモン受容体阻害薬によるSLNの免疫抑制解除のメカニズムを解析する。この実験により、悪性黒色腫でのSLN の免疫抑制の解除法が見つかり臨床応用の可能性がある。メカニズム解析における、評価項目は、樹状細胞、Treg、MDSCなどの数、活性化マーカー、機能である。平行して、ヒトの悪性黒色腫を用いた解析を行う。具体的には、ヒト悪性黒色腫がん組織とセンチネルリンパ節組織の免疫学的解析(CD8T細胞の数、Foxp3陽性細胞の数、各種免疫抑制分子の発現)、ヌードマウスにヒト悪性黒色腫を移植し、SLNや腫瘍局所の樹状細胞やMDSCの機能評価、機能改善のための治療法の探索を行う予定である。
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