研究課題/領域番号 |
24591639
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
森脇 真一 大阪医科大学, 医学部, 教授 (40303565)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 色素性乾皮症 / コケイン症候群 / DNA損傷 / DNA修復 / 紫外線 / 神経変性 / 皮膚癌 / 酸化ストレス |
研究概要 |
本研究の目的は、色素性乾皮症(XP)、コケイン症候群(CS)など紫外線性DNA損傷の修復(ヌクレオチド除去修復:NER)の異常で発症する遺伝性光線過敏症患者の生命予後を左右する進行性、原因不明の神経学的異常の病態を解明し、進行抑制、ひいては治療手段を探索することである。XP神経症状についてはXPA、他のXP因子(XPB、XPD、XPG)が持つ転写というNER以外の機能のみでは説明できない。我々は日光過敏、露光部高発癌(XP)に関わる背景因子であるNERに加え、酸化的DNA損傷に対する修復(塩基除去修復:BERなど)にも関わっているのではないかという仮説のもと、新たな患者情報の蓄積、神経変性との関連を解析中である。本年度は以下の研究結果を得た。(1) コロニー形成能を指標にした感受性試験では、新規XPA細胞、今回新たに加えたCSA細胞、CSB細胞はいずれもH2O2高感受性であった。(2) 正常細胞のCSA、CSB各遺伝子をノックダウンしたところ、H2O2高感受性となった。(3) 最重症型で極めて稀なXP/CS complex を新たに2名診断(XPD/CS、XPG/CS)し、表現型・遺伝型関連(重要ドメインに欠失やナンセンス変異があれば予後がきわめて不良でH2O2高感受性)を確認した。(4)XPG完全欠損マウス中枢神経(大脳皮質、海馬など)に髄鞘不全を認めた。今回の結果はXP、CS細胞はNERのみならず酸化的DNA損傷の修復機能が低下している可能性をさらに示唆するものである。XP、CS患者にみられる多彩な臨床症状の重要度を予測する上で、患者蓄積、遺伝学的解析は重要である。またこれらの疾患の病態を検討する上でマウスモデルは有用である。次年度はこのモデルマウスの神経組織を構築する種々の因子の発現、機能など詳細な分子解析を実施する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
色素性乾皮症(XP)、コケイン症候群(CS)などDNA修復の中のヌクレオチド除去修復の分子異常で発症する遺伝性光線過敏症患者の生命予後を左右する進行性、原因不明の神経学的異常の病態解明し、進行抑制、ひいては治療の手段を探索することが今回の研究目的である。本邦では特にXPの中でXPA群が過半数を占め、XPA患者のほぼすべてに神経症状が見られ、その進行により30歳という短い生涯を終える。今回、当初は神経型XPの典型であるXPA群に着目してXP神経症状の病態を検討する予定であったが、重篤なXP神経症状あるいはCSを合併するXPG群の遺伝子欠損マウスが手に入ったことから、全体的にはXPAよりはむしろXPG、CSにシフトした研究となった。ただ、NER機能、転写機能を併せ持つXPGの欠損マウスを用いて解析を詳細に行うことは、ヒトでは剖検以外に患者からの入手がきわめて困難な神経組織を用いる研究はXP、CSの真の病態を解明するう上で重要である。その観点から、本テーマ研究実施初年度である本年度の研究はほぼ達成できたと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
DNA修復異常で発症する神経皮膚難病の代表である単一遺伝子疾患:XP、CS患者の予後改善、ひいては治療法を考える上で、詳細な病態把握は必須であるが、神経変性に注目すれば現時点ではその発症機序は全く不明である。従って、これらの疾患に罹患する患者QOL向上を目指した治療法の探索が急務である。この目的を達成するためいは、X、PCSにみられる多彩な臨床症状の重要度を予測する上で、患者の蓄積、分子遺伝学的解析は重要である。またこれらの疾患の病態、特に脳神経組織の異常を検出する上でマウスモデルはきわめて有用である。この観点に立ち、今後も患者情報、患者試料の蓄積、分子遺伝学的解析、表現型・遺伝型関連のデータ集積を行う。ヌクレオチド除去修復システム、塩基除去修復システムに関わる各種遺伝子のノックダウンによる細胞の表現型検討実験も進めていく。またXPモデルマウスの神経組織を構築する種々の因子の発現、機能など詳細な分子解析を実施していきたい。本年度にXPG完全欠損マウスを入手し、解析を始めたが、XPAノックアウトマウスも購入、入手可能であるため、XPG、XPA両マウスを使用して、XPあるいはCSの真の病態解明に迫りたい。今後の研究の推進としては、前述した患者解析、マウス研究を実施しつつ、細胞レベル、マウスレベルで、抗酸化剤の有用性を確認し、臨床の場につながる治療法の開発を目指していくというストラテジーを予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
XP、CS患者にみられる多彩な臨床症状の重要度を予測する上で、患者の臨床情報・細胞学的特徴、分子遺伝学的情報の蓄積は重要である。次年度もさらに新規の患者情報、患者試料を蓄積して、DNA修復能測定、紫外線感受性試験、H2O2感受性試験、遺伝学的解析を実施する。また、今年度実施できなかったXPA遺伝子ノックダウンや転写共役ヌクレオチド除去修復に関連するXPB、XPD、XPG遺伝子ノックダウンによるH2O2感受性、DNA修復レベル低下の有無を検討する。さらに、これらの疾患の病態を検討する上でマウスモデルは有用である。次年度はこのXPG完全欠損マウスの神経組織を構築する種々の因子の発現、機能など詳細な分子解析を実施する。また同時に中枢神経系の各組織から種々の細胞の初代培養株を樹立し、様々な損傷に対するするDNA修復レベルを皮膚由来細胞株と比較検討する。平成25年度の研究費は前述の様なゲノム解析、遺伝子発現解析、タンパク解析などを実施するための試薬の消耗品代(1,000,000円)、国内学会出張(100,000円)に使用する予定である。
|