研究課題
本研究の目的は、色素性乾皮症(XP)、コケイン症候群(CS)など紫外線性DNA損傷の修復(ヌクレオチド除去修復:NER)異常で発症する遺伝性光線過敏症患者の生命予後を左右する進行性、原因不明の神経学的異常の病態を解明し、治療手段を探索することである。XP, CS神経症状の病態は種々XP、CS因子(XPA、XPB、XPD、XPG、CSA、CSB)が持つDNA修復、転写という機能のみでは説明できない。我々は同病態にNERのみならず酸化ストレスによるDNA損傷修復(塩基除去修復、二重鎖切断修復など)も関与しているのではないかという仮説を提唱した。昨年度までにXP、CS細胞でのH2O2高感受性、CSA/CSB遺伝子ノックダウンによるH2O2高感受化を確認し、XPG完欠損マウス中枢神経の解析準備を完了した。今年度は新たなXP、CS患者を各々15例、4例同定し、XPGマウスの詳細な検討を行い、また酸化ストレスを引き起こす放射線を各種XP、CS細胞に照射し、その後の修復経過を観察した。XPGマウスではMBP、CC1、Olig2の発現を検討し、大脳皮質でのみオリゴデンドロサイトの分化、ミエリン形成が障害されていることが判明した。一方、オリゴデンドロサイトの脳への遊走能には異常はみられなかった。末期には大脳皮質のみならず内包にもミエリン形成障害生じるが脳梁、海馬は異常がないことが確認された。また多くのXP、XP/CS、CS細胞ではに二重鎖切断の経時的変化に異常がみられた。今回の結果はXP、CS細胞はNERのみならず酸化的DNA損傷、二重鎖切断の修復機能が低下している可能性をさらに示唆するものである。XP、CS患者にみられる多彩な臨床症状の重要度予測、病態解明を行う上で、新たな患者解析は重要である。またこれらの疾患の病態を検討する上でマウスモデルの詳細な解析は有用である。
3: やや遅れている
色素性乾皮症(XP)、コケイン症候群(CS)などDNA修復の中のヌクレオチド除去修復の分子異常で発症する遺伝性光線過敏症患者の生命予後を左右する進行性、原因不明の神経学的異常の病態解明し、進行抑制、ひいては治療の手段を探索することが今回の研究目的である。本邦では特にXPの中でXPA群が過半数を占め、XPA患者のほぼすべてに神経症状が見られ、その進行により30歳という短い生涯を終える。今回、当初は神経型XPの典型であるXPA群に着目してXP神経症状の病態を検討する予定であったが、重篤なXP神経症状あるいはCSを合併するXPG群の遺伝子欠損マウスが手に入ったことから、このNER機能、転写機能の異常を併せ持つXPGの欠損マウスを用いて解析を詳細に行うことは、ヒトでは剖検以外に患者からの入手がきわめて困難な神経組織を用いる研究はXP、CSの真の病態を解明するう上で重要であると考え研究に着手した。ただ、マンパワーが十分ではない状態でのマウス飼育・維持が予想以上に難しく、さらに担当教官、大学院生の休職、辞職があり、本テーマ研究実施2年目のなる本年度の研究は免疫組織学的、形態学的解析のみに終わり、分子生物学的解析の部分がまだ手つかずであった。従って、研究の現状は若干遅れ気味といえる。
DNA修復異常で発症するXP、CS患者の予後改善、治療法を模索する上で、詳細な病態把握は重要である。神経症状のみに注目すれば発症機序は現在も依然として全く不明である。従って、これらの疾患に罹患する患者QOL向上のためにも神経症状の病態把握は急務である。この目的を達成するためには、さらなる新規XP、CS患者情報の蓄積、分子遺伝学的解析を今後も継続して実施し、表現型・遺伝型関連のデータ集積を行う。またこれらの疾患の病態、特に脳神経組織の異常を検出する上でマウスモデルはきわめて有用であるためXPG欠損マウスを用いた研究を病理組織学的レベルのみならず分子レベルでも行い、臨床医療につながる治療法の開発を目指していくというストラテジーを次年度も継続していきたい。
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