研究課題/領域番号 |
24591654
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
窪田 泰夫 香川大学, 医学部, 教授 (10126047)
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研究分担者 |
五十嵐 淳介 香川大学, 医学部, 准教授 (20346638)
小坂 博昭 香川大学, 医学部, 教授 (60158897)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / ステロイド / カベオリン / 角化細胞 |
研究概要 |
糖質ステロイドはさまざまな皮膚疾患の治療に使われている。ステロイド製剤は不適切な使用により局所及び全身に副作用を生じる場合があり実地臨床で大きな問題になっているが、その分子機作は必ずしも明らかではない。我々は今回皮膚と関係する培養細胞を用いて、細胞膜表面に局在する脂質ミクロドメインであるカベオラと、カベオラにおいて受容体シグナリングを制御するタンパク質カベオリン-1(cav-1)に対してステロイドがどのような影響をもたらすかを検討した。 糖質ステロイド製剤の一つであるデキサメサゾン(dex)は時間及び用量依存性に、培養血管内皮細胞におけるcav-1の発現を遺伝子・タンパク質レベルで著明に増加させた。血管内皮成長因子(VEGF)は内皮細胞における代表的なポリペプチド型成長因子でありカベオラに局在する受容体型チロシンキナーゼであるVEGFR-2を介して様々なエフェクター分子を活性化する。我々は、dexで前処置されcav-1を多量に発現するようになった内皮細胞では、VEGFの作用が1)細胞内情報伝達(タンパク質リン酸化反応、一酸化窒素産生、小分子量Gタンパク質活性化)及び2)管腔形成能(正常ヒト皮膚由来線維芽細胞との共培養系)のレベルで有意に減弱することを見出した。かかるdexの作用は、糖質ステロイド受容体の阻害剤またはcav-1に対するsiRNAによってcav-1の誘導を遮断すると観察されなくなった。 一方、正常ラット(オス、八週齢)にdexを腹腔内投与したところ胸部大動脈及び肺動脈の内皮細胞でcav-1発現の増加が見られたが、培養ヒト角化細胞のモデルであるHaCaT細胞ではdexはcav-1発現を変化させなかった。 以上より糖質ステロイドはcav-1の誘導を介して血管内皮細胞の受容体シグナル機能を特異的に変化させることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
皮膚を構成する各種細胞のうち血管内皮細胞についてはステロイドのカベオリン発現や内皮細胞機能に及ぼす影響、内皮細胞機能に影響する他のチロジンキナ-ゼであるVEGF受容体とカベオリンとの相互作用の解明は順調に進んだ。 皮膚特有の細胞である皮膚角化細胞の一つであるHacaT細胞に関しては、カベオリン発現量がもともと少ないためか、ステロイドの影響が明らかではなかった。正常ヒト皮膚由来角化細胞やA431細胞などの使用を考慮しなければならない。また上皮系以外の主要な皮膚構成細胞である線維芽細胞や毛包由来の毛乳頭細胞などでの検討も考慮すべきと思われた。
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今後の研究の推進方策 |
皮膚角化細胞におけるカベオリン発現についてはタンパク量での解析の他、mRNA量の解析を進める予定である。また電顕によるカベオラ構造の変化などの形態学的アプローチを考えている。 また他の皮膚構成細胞である線維芽細胞についてもカベオリン発現やステロイドの影響について検討する予定である。 血管内皮細胞のカベオリン発現に及ぼすステロイドの影響につき数時間単位の短期的作用と数日間という長期的作用につき検討し、その差を比較する予定である。短期的作用を繰り返すことによりその反応性に変化を生じるかどうか検討する。さらに血管内皮細胞の代表的な細胞内シグナル伝達経路の各種分子に及ぼすカベオリン、ステロイドの作用を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ステロイドの血管内皮細胞のカベオリン発現に及ぼす影響をステロイド受容体阻害薬やカベオリンsiRNAを使って確認を進める。細胞膜上にてカベオリンと密接に関係するVEGF受容体以外のPDGF受容体やNOなどの他の細胞情報伝達分子との相互作用をさらに解析する予定である。機能的解析として血管新生の一過程である血管内皮細胞の遊走能に対するカベオリンの作用、ステロイドの及ぼす影響についても検討する予定である。 HacaT細胞以外の上皮系細胞である正常ヒト角化細胞やヒト皮膚線維芽細胞を用いた検討を行う。 糖質コルチコステロイドのなかでも臨床的に血管収縮能力には差があるため、コルチゾール以外の他の強力な合成糖質ステロイドホルモンや性ホルモン、ミネラルコルチコステロイドの影響を検討する予定である。
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