研究課題
本研究は、自己由来の内因性リガンドと病原体センサーの相互作用による非感染性慢性炎症である「自然炎症」がアトピー性皮膚炎の発症と慢性化に果たす役割と分子機構を究明することが目的である。今年度行った検討では、①TLR3-KOマウスにハプテン塗布による遅延型過敏反応や刺激性皮膚炎反応などのアトピー性皮膚炎のモデル反応を惹起して、皮膚での炎症反応を養子移入実験なども含めて詳細に検討するとともに病理組織学的に検討を行ったところ、TLR3-KOマウスでは野生型に比べて反応の減弱ががみられた。また、肥満細胞、樹状細胞、リンパ球、マクロファージなどの機能解析、掻き行動、表皮角化細胞や線維芽細胞が産生するサイトカインについて詳細な解析を行った。その結果、これらの反応増強の機序として、樹状細胞やリンパ球の関与は否定的で、表皮角化細胞や線維芽細胞の関与が考えられた。特に表皮角化細胞が産生するIP-10やRANTESなどのケモカインが、TLR3を介する接触過敏反応の増幅に重要であることが明らかになった。 これらの結果から、アレルギー性皮膚炎、刺激性皮膚炎の反応に表皮角化細胞や線維芽細胞に発現するTLR3を介した炎症増強反応が深く関与していることが示唆された。また、アレルギー反応への内因性リガンドの関与の検討を行うため皮膚炎組織のホモジネートを超遠心で分離した抽出液を用いて、 表皮角化細胞やマクロファージなどTLR3を発現する細胞の活性化機構を転写因子IRF3のリン酸化やIFN-γやTSLP, IL-33の産生、TLR3の発現を指標にin vitroで解析したが、有意な変化は見られず、内因性リガンドの同定には至っていない。
2: おおむね順調に進展している
TLR3を介する皮膚接触過敏反応の増幅機構については分子レベルでの解析がさらに進み、現在論文を投稿中である。一定の成果が得られたと考える。特に、表皮角化細胞が産生するケモカインの増幅作用への関わりを明らかにできたことは、TLR3を介する炎症増幅機構の解明の上で大きな進歩と考える。一方で、皮膚過敏反応の皮膚組織における内因性リガンドの同定には至っておらず、今後さらなる検討が必要と考える。以上の結果は、当初の目標をほぼ達成しており、次年度以降のさらなる詳細な検討を展開する上で、十分な進展と考えている。
①アトピー性皮膚炎患者でのTLR3の発現と機能の検討 アトピー性皮膚炎患者においてTLR3を介するシグナルが増強して自然炎症を惹起している可能性を探求するため、同意を得て採取した患者の組織や細胞を用いて、表皮角化細胞のTLR3の発現を免疫組織化学で評価するとともに、末梢血単球のTLR3発現をFACSで解析するとともに、Poly(I:C)刺激による単球のIFN-γやTSLPなどの産生能と疾患活動性の指標となるバイオマーカーや重症度との関連を検討する。すでに、テープストリッピング検体を同意を得たアトピー性皮膚炎患者から多数採取しており、今後測定、解析に供する予定である。②自然炎症の制御による慢性炎症性疾患の新たな発症予防法や治療法に関する検討 TLR3シグナルの阻害による自然発症皮膚炎やアレルギー炎症とその慢性化への効果を評価するため、TLR3のアンタゴニストや抗体を用いて、TLR3-Tgマウスの自然発症皮膚炎や野生型マウスに惹起した上記アトピー性皮膚炎のモデル反応への効果を検討する。すでにTLR3アンタゴニストを購入し、予備実験を開始している。
計画していた学会出張の旅費を学会主催者が負担するなど、予定していなかった事象が生じたため。最終年度に、ELISAキット購入など支出が多くなると見込まれるため、これに使用する計画である。
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