本研究計画では、遺伝子組換え技術と細胞生物学的アプローチにより、新生する発毛における細胞分化および動態を解析し、発毛現象を解明することを目的とした。 初年度(平成24年度)、発毛に必要な細胞を単離・培養する技術を確立し、さらに遺伝子組換え技術を用いて細胞動態をリアルタイムで観察可能な細胞材料(皮膚上皮幹細胞EpSCsと毛乳頭細胞DPCs)を樹立した。続いて次年度(平成25年度)においては、EpSCsとDPCsを用いた混合培養の条件を種々検討し、毛様構造体を創出できる条件を見出すことができた。そこで最終年度(平成26年度)では、新生した毛様構造体を時間的・空間的に解析し、さらに、in vivoにおける細胞動態とWntシグナルの影響を調べることで、発毛現象の解明を試みた。 発毛の鍵となる2つの細胞(EpSCsとDPCs)は、ある種の培養条件下で効率的に毛様構造体を認め、さらに細胞同士の相互作用により発毛が生じている可能性が示唆された。また、各種Wntを用いてそれらの影響を調べたところ、ある種のWntは、特異的に分化を促進させる働きがあることが明らかとなった。そこで、このWntが正常な発毛に対しどういった影響を及ぼすかを生理的条件下で解析するため、マウスの皮膚組織を用いた器官培養により調べた結果、発毛促進が認められた。さらに、in vivoにおける影響を調べるため、各種Wntを移植した結果、ある種のWntが発毛促進に特異的に働くことが明らかとなった。以上の成績より、発毛に関わるWntの作用は、特異性を示し、発毛において重要な因子であることが示唆された。
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