研究課題
平成25年度は、24年度から引き続きNotch受容体を介したシグナルがマスト細胞のサイトカイン産生を増強する機序についての解析を行い、得られた結果を論文にまとめ学術雑誌に投稿した。Notchシグナルはマスト細胞のIgE受容体架橋刺激に伴うTh2サイトカイン産生を増強させる。解析の結果、Notchシグナルはマスト細胞の活性化を抑制するホスファターゼSHIP-1の発現量を低下させた。SHIP-1発現量が減少することでMAPキナーゼのリン酸化を介した活性化シグナルが増強され、間接的にサイトカイン産生量が増加する機序を明らかにした。また、NotchシグナルはIL-4遺伝子の発現制御領域CNS2を介して直接的にIL-4産生を増強することも示した。また、25年度はNotchシグナルが粘膜型マスト細胞の成熟を促進する機序についても解析を行った。これまでにNotchシグナルが粘膜型マスト細胞のマーカーとなる複数の分子の発現を誘導することを明らかにしてきたが、25年度の研究から、この発現誘導にはIL-3が必須であり、特にIL-3受容体下流の転写因子STAT5の活性化に依存していることが示された。粘膜型マスト細胞の分化過程や分化を誘導する分子的なメカニズムはほとんど知られていないことから、本研究で得られた知見は、粘膜型マスト細胞についての理解と、粘膜型マスト細胞が強く関与する粘膜組織におけるアレルギー反応の病態についての理解を深めるために有用なものであると考えている。
2: おおむね順調に進展している
現在、「1: Notch受容体を介したシグナルがマスト細胞のサイトカイン産生を増強する機序」についての論文を学術雑誌に投稿し、査読者から指摘された実験を追加した改訂原稿を作成中。「2: Notchシグナルが粘膜型マスト細胞の成熟を促進する機序」についても順調に成果が得られており、26年度中に論文としてまとめることができると考えている。また、26年度は「3: マスト細胞がMHC class IIを発現することの生理的意義」についての解析も行う。これまでに、Notchシグナルがマスト細胞にMHC class IIの発現を誘導し、抗原提示細胞としての機能を付与することを明らかにしている。本研究では、MHC class II欠損マウスの骨髄細胞から分化・誘導させたマスト細胞をマスト細胞欠損マウスに移植して、マスト細胞のみがMHC class IIを欠損したマウスを作成し、食物アレルギーを誘導する実験系を用いてマスト細胞の抗原提示機能を解析する。すでにマウスモデルの作成と実験系の構築が完了しており、予備的な検討を行っている。その過程で、当初想定していなかった結果も得られていることから、より時間をかけた慎重な解析が必要であると感じている。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断している。
まずは、現在投稿中の「Notch受容体を介したシグナルがマスト細胞のサイトカイン産生を増強する機序」についての論文の改訂原稿を早急に作製し、再投稿することを最優先課題として行う。次に、「Notchシグナルが粘膜型マスト細胞の成熟を促進する機序」について、すでに良好な結果が得られており研究の方向性も定まっていることから、必要なデータを追加してなるべく早い時期に論文制作に取りかかる予定である。「マスト細胞がMHC class IIを発現することの生理的意義」の研究課題に関しては、実験系の構築が完了しているためできるだけ多くの実験をこなしてデータを得て、26年度中には論文作製のための目処を付けたいと考えている。
平成25年度の本研究課題において、予算消化のためのさほど必要でない物品購入を避けたため28,429円の次年度使用額が生じた。当該助成金は、26年度分として請求する助成金と合わせ、必要な試薬類や実験動物の購入、及び論文投稿料や研究成果発表のための交通費などに使用する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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10.1016/j.jaci.2013.07.040.
http://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/atopy_center/