研究概要 |
(背景)乾癬はTh1,Th17主体の慢性皮膚炎症疾患である。糖脂質ガングリオシドは免疫調節作用を有するため、近年悪性腫瘍,アレルギー疾患の治療に活用されつつある。 (目的)各種ガングリオシドが、乾癬の発症を抑制し、治療薬として有用であることを検証する。 (方法)1.培養表皮ケラチノサイトの各種ガングリオシドを添加し、Th1/Th17系ケモカインの産生を抑制するかを検討する。2.イミキモド塗布により誘導される乾癬モデルマウスにガングリオシドを腹腔内投与し、乾癬様皮膚炎の発症を抑制するかを検討する。 (結果)1.ガングリオシドGM1,GM2,GD1a,GD3,GT1bはケラチノサイトにおいてIL-17,TNF-alpha,IFN-gammaに誘導されるCXCL8,CXCL10,CCL20,human-beta-defensin-2の蛋白放出とmRNA発現を抑制し、これらの産生にかかわる転写因子STAT1,STAT3の転写活性とチロシンリン酸化を抑制した。2.GT1bの腹腔内投与により、乾癬モデルマウス皮膚の鱗屑の増強は抑制され、皮膚のIL-17A,IL-17F,IL-22,IL-12p19,IL-12p40,TNF-alpha,CXCL1,DEFB4のmRNAレベルは低下した。 (意義)ガングリオシドGM1,GM2,GD1a,GD3,GT1bはTh1/Th17系のサイトカイン/ケモカイン、抗菌ペプチドの発現を抑制することにより、皮膚炎症を抑制し、乾癬の発症を抑制すると考えられ、乾癬の治療薬として有用であることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の目標は主として培養表皮ケラチノサイトに対するガングリオシドの作用を検討することであった。本年度の研究により、培養表皮ケラチノサイトのTh1/Th17系ケモカイン、抗菌ペプチド産生に対するガングリオシドGM1,GM2,GD1a,GD3,GT1bの抑制作用を発見し、これらの産生に関わる転写因子STAT1,STAT3の活性を抑制することが抑制作用のメカニズムであることが判明した。この結果、ガングリオシドがケモカイン産生抑制を介して皮膚においてTh1,Th17細胞、好中球の浸潤を抑制する可能性が示唆される。 さらにガングリオシドのうちGT1bについては、in vivoにおいても乾癬モデルマウスの皮膚炎発症を抑制する可能性を示唆する研究成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 培養ヒトケラチノサイトの増殖に対する各種ガングリオシドの抑制作用を検討する。 ケラチノサイトのIL-22, IL-19, IL-20, IL-24刺激による増殖を,BrdUの取り込みにより評価し,これらサイトカインのレセプターのリン酸化をwestern blotで評価する。各種ガングリオシド(GM2, GM1, GD1a, GD3, GT1b)のうち,いずれを添加すると,これらの反応が抑制されるかを検討する。 2. GT1b以外の各種ガングリオシドがマウスの乾癬様皮膚病変を制御することを検証する。 イミキモド塗布により誘導される乾癬モデルマウスに、ガングリオシドGM2, GM1, GD1a, GD3を腹腔内投与し,各種ガングリオシドの臨床効果を皮疹(紅斑,鱗屑,表皮肥厚)のスコアの改善度で評価し,真皮の血管新生,浸潤細胞の数と種類,および皮膚におけるTh1/Th17系サイトカイン/ケモカイン、抗菌ペプチドの発現に対する各種ガングリオシドの作用を,病変部皮膚の免疫組織染色,western blot, RT-PCRにより評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験マウスの購入・維持費として100,000円および培養ケラチノサイト,ガングリオシド,RT-PCR primer,western blot用抗体などの購入費として600,000円の使用を予定している。
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