研究実績の概要 |
哺乳類の上皮細胞の頂端基底極性 (apical-basal polarity) の形成には、進化的に保存された aPKC (atypical protein kinase C)-PAR (partition defective) システムが重要な役割を果たしている。本研究は、aPKC-PAR システムを構成する分子の一つ、aPKCλ(lamda)の表皮における役割を調べるために、aPKCλを表皮細胞特異的に欠損させたマウス(cKO)を作製し、以下のことを明らかにした。①cKOマウスは加齢とともに進行性の脱毛をきたし、約1年で全脱毛となる。②cKOマウスでは、表皮肥厚、脂腺過形成をきたす。③cKOマウスでは、毛周期が異常となる(成長期の遷延化)。④cKOマウスでは、種々の幹細胞マーカーの発現時期、発現部位に異常をきたす。⑤cKOマウスでは、毛包幹細胞を休眠状態に保つKeratin6, Fgf18, Bmp6の発現が低下する。⑥cKOマウスでは、フローサイトメトリーで定量すると、毛包幹細胞が次第に枯渇する。 以上の結果から、次のようなメカニズムが考えられた。cKOマウスでは、aPKCλの欠損により、毛包幹細胞は休眠状態を保てなくなり恒常的に活性化状態となる。その結果、表皮細胞、脂腺細胞は活発に分裂、増殖し、表皮肥厚、脂腺肥大をきたす。一方、毛包細胞も活発に増殖し続け成長期が遷延化するが、次第に幹細胞プールが枯渇し脱毛となる。 本研究により、「毛包幹細胞の休眠状態の維持」、というaPKCλの新しい機能が明らかになった。この研究成果は、2014年のヨーロッパ研究皮膚科学会、および日本研究皮膚科学会でPlenary sessionに選ばれ口演発表を行った。また、現在J. Invest. Dermatol.に印刷中である。
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