研究課題/領域番号 |
24591672
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
古村 南夫 久留米大学, 医学部, 准教授 (10315070)
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研究分担者 |
橋本 隆 久留米大学, 医学部, 教授 (20129597)
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キーワード | メラニン生成 / メラノサイト / クロマチン免疫沈降法 / 転写因子 / 次世代シーケンシング |
研究概要 |
1.培養ヒトメラノサイトにおいて、adenylate cyclaseの刺激・阻害薬や、さらにcAMPの下流に位置することが明らかになったPKAやPARSシグナルの修飾によって変化するcAMPシグナル関連遺伝子の発現パターンをオリゴマイクロアレイによる包括的遺伝子発現データにより解析した。cAMPシグナルが定常状態以下に抑制されると転写因子TFEB/TFE3の発現が亢進することと、細胞増殖遺伝子の発現変化が改めて確認された。 2.上記条件下でのユビキタス転写因子TFE3/TFEBの発現亢進や,細胞周期や増殖にかかわるサイクリン,CDKなどの遺伝子発現亢進を制御する可能性のあるマイクロRNAを同定するために、miRNAマイクロアレイ解析により、培養メラノサイトで高発現しているmiRNAを特定後、個々の機能について検索した。miR-30b, miR-146a, miR-29aなどが,複数のシグナルとクロストークしながら、TFEBや細胞増殖などを起こす遺伝子の発現制御に関わっている可能性が示唆された。 3.全ゲノムクロマチン免疫沈降(ChIP)法と、次世代シーケンサーを組み合わせたChIP-Seqにより、DNAとタンパク質(制御機構に関与することがこれまでの我々の研究で示唆された、3種類の転写因子TCF4, TFEB, TFE3)の結合サイトのゲノムワイド同定を試みた。本年度は、adenylate cyclase 阻害薬であるSQ22536で処理したヒト培養メラノサイトDNAを 、TCF4特異的な3種類の異なる抗体を用いて免疫沈降し、ChIP-seq のデータよりMACSを用いて結合サイトをピーク解析した。2,7,8,12,15番染色体では、ネガティブコントロールよりピークが有意に多く検出されたが、セントロメア近辺のものやコントロールと一致したピークがほとんどで、クロマチン処理は適切に行われたが、抗体の特異的結合由来のピークではなく、フォールスポジティブと判断した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.多数の遺伝子がトランスクリプトームの包括的特性に関与しているため、その解明には複数の新しいアプローチを並行させながら、関連付けて取り組む必要性がある。 2.そのため、本年度は近年miRNAマイクロアレイを追加して行い、新たなキーポイントとなる因子の探索を行った。miRNAが結合しうる遺伝子のデータベースが年々バージョンアップされたこともあり、転写因子の発現をその上流で制御する分子機構を解明するためのアプローチの基礎となる知見を得ることが出来た。 3.このような従来から確立されている手法では、一定の結果が得られたが、キー遺伝子として働いていると考えられる転写因子の解析に関して、cAMPシグナルによって、発現が変化する転写因子の未知の作用点や直接的な作用機序の解明については、今回、CAGE法を用いた実験で良好な結果を得ることが出来なかったため、ChIP-seqを中心に実験を行った。しかし、ChIP-seqでのゲノムワイド探索でも、有意な結果は得られなかった。その理由として、対象として検討しているこれらの転写因子そのもの発現レベルが比較的低いこと、さらに、これらの転写因子に特異的な抗体を用いたChIPの報告がこれまでになく、独自に特異性の高い抗体を、今後更に探索する必要があると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
1.トランスクリプトームの包括的制御機構の第一段階として、まず関連遺伝子のプロモーター活性で個々の遺伝子発現や機能が制御される。この機構解明の研究技術は年々進歩し低コストの手段が増加しつつある。実験の各段階における問題点を明らかにして、予算とのバランスを考えながら、鍵となる転写因子の結合と遺伝子発現制御機構の一端を明らかにする予定である。 2.ChIP-seqの手法については技術の進歩によって、安定した結果が得られるようになった。しかし、転写因子の結合部位を示す明らかな証拠はまだ得られておらず、今後は3つの異なる転写因子が結合できる遺伝子配列ゲノムワイドでの特定を、達成目標の中心にして研究を推進していく。 3.研究費の使用計画については、次世代シーケンシングによる解析は次年度も、学内での稼働が安定していないため、アウトソーシングで行い、3種類の転写因子についてのChIP-seqによる解析を行って、研究を進める。メラニンの混入によるクロマチンの断片化などの問題はほとんど払拭されたため、今後はさらに数種類の抗体を購入した上で、さらに解析検討を継続し、抗体による免疫沈降をさらに効率よく、特異的に行えるように、抗体探索と反応条件の最適化を行う。 4.特に、TCF4については、発現レベルの解析や、高発現させた培養細胞でのプロモーターアッセイによる機能解析がこれまで主に行われてきたものの、蛋白レベルでの、遺伝子結合部位に関する既知の研究報告が少なく、さらに類似転写因子との遺伝子名の混同などがこれまでの研究論文の報告に多く見受けられる。また、市販の抗体の特異性についてもこのような背景から、不明な点が多く更に検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
ChIP-seqによる転写因子結合部位の全ゲノム解析を行っているが、前年度より継続したアウトソーシング解析を次年度も行う必要があり、さらに転写因子に特異的な抗体の探索と反応性の検討などに、予定よりさらに若干の期間の延長を要し、その後に改めて、解析を行い、次世代シーケンシングの結果を得ることを目標に、最終年度の26年度にわたる実験の継続が必要であるため、次年度に予算と解析を繰り越した。 抗体探索後にChIP-seqに用いる抗体の購入費および次世代シーケンシング解析外注費用の一部に使用する予定である。
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