研究課題/領域番号 |
24591673
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 猛 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70250438)
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キーワード | 気分障害 / 恐怖条件付け / 扁桃体 / ストレス |
研究概要 |
1. 母子分離ストレスと慢性ストレス誘発モデルを組み合わせたうつ病モデルに関する行動学的、神経化学的検討を行った。うつ病モデルではsucrose preference testでsucroseに対する嗜好性が低下することから、報酬系の機能低下が示唆された。さらに自発運動量の低下が認められた。現在、脳内の様々な脳部位(前頭葉、扁桃体、海馬、縫線核)においてmRNA、タンパク発現をRT-PCR、Western blotによって解析している。 2. 母子分離ストレスのみによっても、成体扁桃体のCRH、neurotensin1受容体のmRNA発現が低下することが明らかになった。Neurotensin1受容体のmRNA発現低下の機序がneurotensin1受容体のDNAメチル化亢進であることが明らかになった。すなわち、母子分離ストレスによってneurotensin1受容体DNAのepigeneticな変化が惹起され、mRNA発現が低下したと考えられる。さらに、母子分離ストレスをうけた成体ラットでは恐怖条件付けストレスによる不安症状が強く出現することもneurotensin1受容体機能の低下により惹起されていることが、neurotensin1受容体アゴニスト、アンタゴニストによる行動薬理実験から明らかになった。現在うつ病モデルにおいてもneurotensin1受容体mRNA発現が低下しているかどうかを検討中である。 3. 母子分離ストレスは、成体ラット海馬由来の神経前駆細胞においてDNA methyltransferaseの活性を高め、epigeneticな影響を通してretinoic acid α受容体の発現を低下させることによって、神経前駆細胞から神経への分化を抑制することが明らかになった。この結果は母子分離ストレスが神経新生に影響することをex vivoの実験で明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要に報告しているように、行動、神経化学的検討を組織的に行なっており、新しい知見が次々に見つかっている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画書および交付申請書に述べた実施計画を下記のように予定通りに推進する予定である。 母子分離ストレスと慢性ストレス誘発モデルを組み合わせたうつ病の動物モデルラットにCFSを負荷した際の細胞外神経伝達物質濃度(グルタミン酸、GABA、セロトニン、ドパミン、ノルアドレナリン)を脳内微小透析実験で測定し、非モデル動物における結果と比較する。うつ病の動物モデルラットでは情動ストレスに対する反応が過敏になっていることが予想され、したがって、すくみ行動を同時に測定することにより、うつ病モデルでの情動神経回路の機能の異常を本実験で明らかにすることができることが期待される。うつ病の動物モデルラットにCFSを負荷した際のCFS関連物質(CFSによって発現が特異的に変化する物質)の発現を非モデル動物における結果と比較し、うつ病の動物モデルラットに想定される情動神経回路の機能の異常を転写因子や細胞内情報伝達レベルの物質変化でとらえる。 さらに、うつ病の動物モデルラットの情動ストレスに対する反応性の異常が抗うつ薬の投与によってどのように変化をうけるのかも行動、細胞外神経伝達物質濃度とCFS関連物質や転写因子・神経栄養因子発現を指標に検討し、抗うつ薬の新たな作用機序解明を目指す。幼少期のストレスによってエピジェネティックな変化が生じて、上記の情動ストレスへの反応性が変化する可能性を検証するために、CFS関連物質のDNAメチル化についてモデル動物と非モデル動物で比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
各実験には数万円単位の一定の予算が必要なため、平成25年度の研究費は少額残ったが、次年度に有効利用するために持ち越しとした。 平成25年度の研究費は少額次年度に持ち越すことになったが、この研究費は平成26年度の研究費とあわせて予定された研究計画にそって、ラットの購入、神経化学的検討のための試薬購入に使用する予定である。
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