(1)平成24年度には、ラットの文脈的恐怖条件付けの発現に対して、SSRIであるシタロプラムを両側扁桃体基底核に局所投与し、不安行動が抑制されるかどうかを検討した。その結果、シタロプラムの局所投与は不安行動を用量依存的に抑制した。平成25年度には、研究代表者である泉が、米国Albert Einstein大学に留学し、monoamine代謝酵素であるCOMTをマウスの脳内で強制発現させて、不安行動を調べる研究に従事した。その結果、「海馬でCOMTを強制発現させた場合、不安が増強する。」という結果が得られた。これは海馬のmonoamine神経系が不安に関与をしていることを示す新しい知見である。平成26年度には泉が留学より帰国し、SSRIが扁桃体基底核のどの5-HT受容体サブタイプに作用するかを明らかにするため、SSRI局所投与に対する5-HT1Aおよび5-HT2A受容体阻害薬の同時投与の効果を検討した。その結果、5-HT1A受容体阻害薬は用量依存的にSSRIの抗不安効果を阻害し、SSRIの抗不安効果の一部は、扁桃体の5-HT1A受容体を介することが明らかとなった。5-HT2A受容体阻害薬の投与でも同様の結果が得られたが、用量依存性を確認するまでには至らなかった。 (2)平成24年度には、ラット扁桃体パッチ・クランプを用いた単一細胞PCR法を確立した。平成26年度に行った検討では、扁桃体基底核のグルタミン酸作動性ニューロン77個から記録を取り、うち6.5%が5-HT1A受容体mRNA陽性、11.7%が5-HT2A受容体mRNA陽性で、5-HT1A受容体を有するニューロンは有意に静止膜電位が低かった。以上より、SSRIによって増加した5-HTが扁桃体基底核で5-HT1A受容体を介してグルタミン酸作動性ニューロンの興奮を抑制していることが示唆された。
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