研究実績の概要 |
DNAを構成する塩基の一つであるシトシンには様々な修飾状態が存在する。そのうちの一つであるハイドロキシメチルシトシン(5-hmc)は、メチル化シトシン(5-mc)が脱メチル化されて未修飾のシトシンに戻る際の中間産物と考えられており、特に脳組織に多く存在すると報告されているが、詳しい機能は不明である。我々は5-hmcが精神疾患の病因にかかわる可能性を検証するため、ヒト死後脳を用いて脳ゲノムにおける5-hmcの詳細なマッピングを行った。 まず神経・非神経細胞それぞれに特異的な5-hmcの分布を知るために、健常者の前頭葉から神経・非神経細胞核を分画し、それぞれの画分のゲノムDNAについて5-hmcをグルコシル化したのちプルダウンするという手法で、5-hmcを含む100-500bpほどのDNA断片を濃縮した。得られた断片について、次世代シークエンサーを使用して配列情報の取得を行い、マッピングを行った。その結果、非神経細胞と比較すると神経細胞のDNAでは、レトロトランスポゾンの一種、LINE-1のほぼ全てのサブタイプにおいて高メチル化状態であったが、進化的に新しいLINE-1のサブタイプでは、ハイドロキシメチル化が有意に亢進していることを見出した。我々は、統合失調症患者の死後脳DNAにおける有意なLINE-1コピー数上昇を報告しているが、この結果がLINE-1のハイドロキシメチル化と何らかの関連があることも推測される。 また上記の方法では解像度が100-500bpと比較的低いが、近年5-hmc, 5-mcおよび未修飾のシトシンを1塩基レベルで識別できる酸化バイサルファイト法という手法が開発された。そこでこの手法を用いて、マウスのさまざまな脳部位について、修飾シトシンデータをゲノム網羅的に取得した。将来的にはこれらの基礎データをもとに、精神疾患患者の死後脳を使用して解析を行う予定である。
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