研究課題/領域番号 |
24591680
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
安田 由華 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (20448062)
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研究分担者 |
山森 英長 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座助教 (90570250)
梅田 知美 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (00625329)
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キーワード | 統合失調症 / NRGN遺伝子 / GWAS / ゲノム / 神経科学 / 遺伝子発現 / 前部帯状回灰白質体積 / IQ |
研究概要 |
本研究の目的は、このNRGN遺伝子多型の機能解析を行うことである。前年度までに、日本人においてもGWASで見出された遺伝子多型rs12807809を含むrs12807809-rs12278912ハプロタイプが統合失調症と関連することを報告した。さらに、患者健常者由来のリンパ芽球細胞を用いて、リスクTGハプロタイプのNRGN遺伝子発現量がTAハプロタイプより低いことをはじめて報告した(Ohi et al., Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2012)。また、rs12807809リスク多型を持つ統合失調症患者でのみ統合失調症の前帯状皮質の脳灰白質体積が小さいことを報告した(Ohi et al., PLos ONE 2012)。前年度までに見出した結果に加え、NRGN遺伝子が海馬でシナプス可塑性等神経機能に関与するという報告、Nrgnノックアウトマウスで空間学習の障害を認めること、NRGN遺伝子がカルシウムシグナリングを介して統合失調症で機能低下が知られているNMDA受容体機能に関与している可能性を基に、我々はNRGN遺伝子多型が統合失調症の認知機能障害に関わっている可能性を考えた。そこで、414名の統合失調症患者及び健常者において、NRGN多型(rs12807809、rs12278912)、rs12807809-rs12278912ハプロタイプあるいはディプロタイプが統合失調症の中間表現型である知能指数(IQ)に及ぼす影響を検討した。その結果、NRGNのリスクTG/TGディプロタイプを持つ統合失調症でのみ非リスクのTA/TAディプロタイプに比べてIQが低いことを見出した(Ohi et al., J Hum Genet. 2013)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
統合失調症のGWASで同定されたNRGN遺伝子多型の機能はよく分かっていないため、日本人におけるNRGNと統合失調症の関連、そのリスク多型の遺伝子発現やスプライシングに対する影響や、さらに統合失調症にて障害される認知機能、脳構造との関連についての検討を行うことが本研究の目的である。まず、統合失調患者2019名と健常者2574名の日本人サンプルにおいて、NRGN遺伝子をカバーする遺伝子多型を用いて日本人における統合失調症とNRGNの関連を検討した。その結果、GWASで見出された遺伝子多型を含むrs12807809-rs12278912ハプロタイプが、日本人において統合失調症と関連するリスク多型であることを同定した。さらに、統合失調患者42名と健常者44名のリンパ芽球を用いて、統合失調症のリスクとなるTGハプロタイプのNRGN遺伝子発現量がTAハプロタイプより低いことを見出した(Ohi et al., Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2012)。次に、リスク多型の機能を検討するため、NRGNリスク多型が統合失調症の中間表現型である脳構造やIQに及ぼす影響を検討した。統合失調患者99名と健常者263名を用いたvoxel-based morphometry (VBM)解析において、患者でのみリスク多型が前帯状回灰白質体積と関連する事を見出した(Ohi et al., PLos ONE 2012)。また、414名の統合失調症及び健常者において、NRGN遺伝子のリスクTG/TGディプロタイプを持つ統合失調症患者は、非リスクのTA/TAディプロタイプを持つ患者に比べてIQが低いことを見出した(Ohi et al., J Hum Genet. 2013)。引き続きNRGNに着目して、統合失調症の分子遺伝学的基盤を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
統合失調症は多因子遺伝疾患であり、個々の遺伝子の疾患に及ぼす効果が弱いことから、その効果を同定することは難しい。そのため、統合失調症で障害される認知機能や脳構造などの中間表現型を用いることで、より明確に疾患に与える遺伝子効果を同定することができる。よって、既に確立された体制により効果的、効率的に継続的に対象者をリクルートして対象者数を増やすことで、統計学的な検出力が増し、得られた結果における偽陽性の可能性を低くすることができる。そのため、収集したサンプルを追加し、さらに大規模サンプルにてNRGN発現量や中間表現型との関連について検討を進める。その成果を、我々が包括的遺伝解析研究として発足した脳表現型の分子メカニズム研究会や国内外の学会において発表していく。さらに、新聞発表などのマスメディア、インターネットなどのアウトリーチにて研究成果を社会・国民に発信していく。 今後、さらに統合失調症の病態におけるNRGN遺伝子が及ぼす影響を解明するために、死後脳を用いたNRGNの発現解析や、iPS細胞を用いた神経機能解析を行う。また、遺伝子発現調節に関わるmicroRNAが統合失調症の病態に関与しているという報告がいくつかあり、そのmicroRNAの1つであるMIR137遺伝子多型がGWASで見出され、MIR137の結合するターゲーット領域としてこれまでにGWASで見出された遺伝子多型領域が含まれることが報告されている。そこで、NRGNとGWASにおいて報告されている他の遺伝子多型(ZNF804A、TCF4、CSMD1、CNNM2など)との相互作用解析を行う。このように、これまで個々に考えられていた遺伝子多型が、ネットワークを形成することにより、分子メカニズムの面でいくつかに収束する可能性がある。こられの解析を行うことにより統合失調症の分子遺伝学的基盤から病態メカニズムを解明していく。
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