研究課題
本研究では、認知症の代表であるアルツハイマー病(AD)やレビー小体型認知症(DLB)の診断を血漿マーカーによって客観的で簡便な診断に結びつけることを目指している。すでに我々が明らかにした候補マーカーの有用性を検討するために、250名の認知症患者と約300名の健常高齢者から血液サンプルを得ている。ヒト血液の採取の際には、札幌医科大学臨床研究審査委員会の審査を受け、承認を得た。これまで、候補マーカーとしてアネキシンA5に注目してきた。アネキシンA5はADのみならずDLBにおいても健常高齢者と比較して有意に上昇していた。一方、健常高齢者においてアネキシンA5濃度は年齢と共に上昇することが明らかになった。しかし、AD/DLB患者よりも有意に低い値であった。更に、認知症のない鬱の高齢者においては、血漿アネキシンA5濃度は健常高齢者と同程度であった。従って、血漿アネキシンA5の認知症マーカーとしての有効性が示された。一昨年度、新規ADバイオマーカー候補としてMilk Fat Globular Protein EGF-8(MFG-E8)を明らかにした。ADモデル動物(Tg2576マウス)を用いて、抗MFG-E8による脳標本の蛍光免疫染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果、MFG-E8はAβペプチドの蓄積のある老人斑の大小に関わらず、その核を成すように内部に染まる像が得られ、特徴的な局在があった。この特徴は他のADモデル動物(APPswe/PS1マウス)においても同様の結果を得た。すなわち、MFG-E8は老人斑の核を形成しAβがその核を取り巻く局在をすることが確かめられた。この新規候補マーカーの有効性について検討を加えるために、抗体作製、トランスジェニック動物の作製を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
認知症(特に、アルツハイマー病(AD))の血漿候補マーカーアネキシンA5について、AD患者血漿で上昇することを明らかにしてきた。ADは認知症の中で最も多いタイプである。ADに次いで多いレビー小体型認知症(DLB)患者の血漿アネキシンA5を測定した結果、DLBでも健常高齢者に比して有意な濃度上昇があることが明らかになった。しかし、調べた検体数は少ないが認知症のない鬱の高齢者においては、血漿アネキシンA5濃度は健常高齢者と変わりなかった。更に、健常高齢者においてアネキシンA5濃度は年齢と共に上昇することが明らかになったがその程度は、AD/DLB患者よりも有意に低い値であった。したがって、アネキシンA5は認知症(AD, DLB)の鑑別に有効であることが示され、バイオマーカーとしての有用性が評価できる。2種類のADモデル動物(Tg2576およびAPPswe/PS1マウス)の脳標本において共通に、新規候補マーカーMilk Fat Globular Protein EGF-8(MFG-E8)は、Aβペプチドの蓄積のある老人斑に局在する免疫組織染色像が認められたすることがわかった。特徴的なことは、老人斑の大小に関わらず中心部に局在することであった。このことは早い段階でMFG-E8が老人斑の核を形成し、Aβが引き続いてその周りに集まることが推定され、老人斑形成の機構を示唆するものである。
MFG-E8はAD患者血漿において上昇する傾向にあることを昨年度示し、血漿バイオマーカーとしての有用性を示唆した。この目的のために感度の高い測定系を開発し検体数を増やして検討する必要がある。そのための抗体作製が進行中である。また、トランスジェニック動物の作製を行い、行動科学的解析を行い、候補マーカーの生物学的検討を行う。候補マーカーについてその有用性を追求し、生物学的意義を詳細に検討する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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