研究課題/領域番号 |
24591700
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
本橋 伸高 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (30166342)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 経頭蓋直流刺激 / うつ病 / 認知機能 / 背外側前頭前野 |
研究概要 |
経頭蓋直流刺激(tDCS)を精神障害の治療法として臨床応用するための予備的な研究を健常成人を対象として行った。 まず、前頭葉機能との関連が示されている言語流暢性課題に及ぼすtDCSの急性効果を検討した。背外側前頭前野に対する1 mA、20分間の陽極、陰極または偽刺激を同一健常成人に対して行ったところ、各刺激前後での課題遂行能に差はなかった。また、特に問題となる副作用は認めなかった。これにより、急性のtDCSは言語流暢性課題に影響を与えない可能性が示された。 次に、以前に行った4日間反復陽極または偽刺激tDCSの健常成人認知機能に与える研究の結果を信号検出理論に基づき再解析した。信号と雑音の刺激を伴う選択反応、作動記憶および視覚再認学習課題の結果をhit rate、discriminability (d’) およびresponse criteria (c) の3要素について解析したところ、視覚再認学習課題のhit rateとd’が時間とともに増加した。陽極刺激による課題遂行能は偽刺激と差を認めなかった。この課題には学習効果を認める可能性があることから、正答率と信号・雑音の判別能力の向上がこの効果と関連していることが示唆された。 これまで行った認知機能課題は比較的容易であり、天井効果が無視できないことから、より複雑な課題を含む検査法を検討し、コグステートリサーチを今後の研究に用いることとした。現在この中から課題の選択を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
経頭蓋直流刺激(tDCS)を臨床応用するためには、健常成人で安全性が保証される必要がある。また、tDCSの刺激条件を決める必要がある。その点で、これまでの検討により特に副作用を認めていないことは、今後研究を推進する上で重要な所見と考えられる。また、これまでの検討では認知機能に対する悪影響は示されていないものの、過去に報告されている作動記憶に対する有利な影響は十分に評価できていない。認知機能に対する影響を正しく評価するためには、適切な課題を選択し、健常成人で研究をさらに進める必要がある。 既に得られた研究結果については雑誌投稿中であり、現在修正をし再投稿の準備をしている。研究成果が雑誌掲載までに至らなかった点については反省点と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
認知機能に対する影響をより複雑な課題により評価することが必要であり、そのための課題を選定している。これが決まった時点で、健常成人での検討をさらに進め、tDCSの有用性を確認したい。 ごく最近左背外側前頭前野に対する経頭蓋直流刺激が抗うつ薬による抗うつ効果を増強するとの報告(Brunoni et al., JAMA Psychiatry 2013) が発表された。このことは、今後の研究を進める上で非常に参考になるとともに、研究推進を勇気づけるものである。この研究を参考にし、うつ病患者に対するtDCSの臨床応用をわが国初めて行うことを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度に実施できなかった研究については、新たな認知機能課題(コグステートリサーチ)を用いることにより、健常成人の認知機能に与える急性および反復性tDCSの影響を検討することを計画しており、このための謝金や検査結果の解析費用などに用いる予定である。具体的には、左背外側前頭前野に対する陽極tDCSの認知機能に与える影響を偽刺激と比較する研究を行い、急性と反復性による効果の違いを検討する。 次に、予備的な臨床研究として、うつ病患者に対するtDCSの治療効果を陽極tDCSと偽刺激のクロスオーバー法により少数例で判定し、合わせて認知機能に対する影響を検討する。この際、謝金および検査結果解析費を要する。 研究成果については、国内外の学会で発表するため、それに伴う旅費を必要とする。
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