研究課題/領域番号 |
24591700
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
本橋 伸高 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (30166342)
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キーワード | 経頭蓋直流刺激 / 背外側前頭前野 / うつ病 / 認知機能 |
研究概要 |
健常成人を対象とした経頭蓋直流刺激(tDCS)の予備的な研究成果がNeuroscience Research誌(第77巻、64-69頁、2013年)に掲載された。この論文では、4日間の左背外側前頭前野に対するtDCSが気分と認知機能に悪影響を与えないことを示し、さらに学習効果を増強する可能性を示した。ただし、問題点として、認知機能検査が容易であったこと、刺激の中断期間が短かったことなどがあった。 大うつ病性障害・双極性障害治療ガイドライン(医学書院)、難治性気分障害の治療についてのエビデンスレビュー(アークメディア)の作成に協力したほか、脳刺激法での一つである電気けいれん療法(ECT)の推奨事項の改訂版(精神神経学雑誌)やECTの倫理的問題についての解説(丸善出版)を発表した。 うつ病を対象とするtDCSの研究を概観し、これまでの問題点を整理した。すなわち、刺激条件についての検討が十分でないことが明らかであり、電極配置による脳機能に対する影響を研究する必要のあることが認められた。また、tDCSの直接的な抗うつ効果は限定的であるので、薬物療法を増強する可能性を検討する必要があると考えられた。 今後の臨床応用を進めるために、電極配置による脳機能変化の違いを検討する研究を本学倫理委員会に提出し、承認を得た。現在研究を開始している。この研究では、陽極を左の背外側前頭前野に配置し、陰極は右の背外側前頭前野または前額部に配置し、両者の違いを認知機能検査によって検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
健常成人を対象とする研究については成果を発表できたほか、次の研究も開始できている。今回の研究では認知機能課題としてCogStateのInternational Shopping List、Set Shifting、Two Backを加えることで、前頭葉機能の変化をとらえることができるように工夫した。また、陰極の配置部位を検討することで、今後の臨床応用に役立つ研究になることが期待できる。 tDCSを臨床応用するためには、これまでの研究の問題点を十分に把握し、基礎的な検討を加えることが非常に重要である。また、tDCSは容易に実施できるため、一部のゲーム愛好家の間で用いられるなど、社会的な問題が明らかになってきている。したがって、今後tDCSの研究を進めるためには、倫理的な問題についての検討を含めた慎重な態度が求められている。この点についても理解を深めることができており、臨床応用に対する準備は整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
現在開始した健常成人での研究を進めるとともに、うつ病その他の精神神経疾患に対するtDCSの研究結果を十分に吟味し、臨床応用の検討を行いたい。しかし、tDCSは導入されてまもない脳刺激法であるので、各分野からの基礎的および臨床的発表に対して十分な吟味を行う必要がある。現時点では安全性に問題はないとされてはいるものの、特に危険性については注意を払うとともに、刺激の至適条件が判明すればそれを用いた研究に方法を変更する場合がありうる。 臨床応用の試みとして最初に実施するのは、tDCSがうつ病の薬物療法を増強する可能性があるかどうかについて、偽刺激と比較する方法が最も現実的である。具体的には、抗うつ薬治療に加えて左背外側前頭前野を陽極刺激する群と偽刺激を加える群に分け、クロスオーバー法で比較することを検討している。この際、研究の倫理面については十分な配慮を加えるつもりである。ただし、電極の固定法については、臨床的に用いるためにはさらなる工夫が必要であり、海外で開発された新たな刺激装置の導入を準備している。
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次年度の研究費の使用計画 |
tDCSについてはこの1年で非常に多くの研究が発表されており、その結果を十分に把握することが必要であった。また、tDCSは容易に実施できることから、倫理的な問題に対しても検討をする必要に迫られていた。そのため、研究計画の準備に時間がかかり、人件費および研究発表のための旅費を十分に用いることができなかった。 研究計画は本学倫理委員会の承認を得ており、人件費を用いて研究を遂行することが可能になっている。また、認知機能検査の準備は整っており、すでにライセンスを取得したため、今後の解析費用は必要がなくなる。その分を追加して次年度の人件費として用いる予定である。
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