研究課題/領域番号 |
24591703
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木村 宏之 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (50378030)
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研究分担者 |
栗田 賢一 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (40133483)
伊藤 幹子 愛知学院大学, 歯学部, 非常勤講師 (50469003)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 疼痛性障害 / 口腔内灼熱症候群 / リエゾン精神医学 / 抗うつ剤 |
研究実績の概要 |
疼痛性障害は「中枢神経因性疼痛」であることが明確化され、海外では多くの証左が蓄積されている。一方、我が国の「疼痛性障害」について、基礎研究と比較して臨床的研究は不十分である。 本研究は、口腔領域の疼痛性障害Burning Mouth Syndrome(BMS)に対する新規Serotonin and Norepinephrine Reuptake Inhibitors(SNRI)であるデュロキセチンの下行性痛覚抑制系の活性化による疼痛改善効果を確認し、疼痛改善効果に影響を与え得る要因として、生物学的因子である薬物血中濃度、血中サイトカイン、神経成長因子、心理社会的因子である患者の養育体験・人格傾向を選択し、関連性を検討する。そして、疼痛性障害(BMS)に対する治療指針策定と本疾患のBio-Psycho-Socialな包括的理解を目指す。 愛知学院歯学部外来を初診しBMSと診断され本研究に同意の得られた患者に対して、歯科医師による歯科診断および精神科医による精 神科診断を行う。精神科医により構造化診断面接(Structured Clinical Interview for DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)-Ⅳ: SCID)を施行し、他の精神障害およびパーソナリティ障害を除外する。そして疼痛性障害と診断された患者 で、かつ「臨床的に正常な口腔粘膜を有するにもかかわらず口腔内に灼熱感や痛みが存在する状態であり、医学的および歯学的に原因が同定されない」という口腔外科領域で広く用いられている基準を満たしBMSと診断された患者を試験の対象とし、ヂュロキセチンの 効果に関するデータ集積にあたる。2010年4月から現在までに121例が本研究に参加している(年間約10例が参加)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、疼痛性障害に対するデュロキセチンの疼痛改善効果を確認した上で、疼痛改善効果について、生物学的因子としてデュロキ セチン血中濃度、血中サイトカイン、神経成長因子との関連性や、心理社会的因子としてBMS患者の養育体験・人格傾向との関連性に ついて明確にすることを目的としている。 疼痛性障害に対するデュロキセチンの疼痛改善効果については、41例について検討しその有効性を発表した(Clinical Neuropharma cology 35(6)p273-7、2012)。薬物血中濃度:抗うつ薬Duloxetineを用いて治療した患者のうち治療前後での血液を収集できた44症例において、Duloxetine血中濃度と疼痛軽減効果との関連について解析を行ったが、有意な関連は認めなかったClinical Neuropharma cology in press)。理社会的因子としてBMS患者の養育体験・人格傾向については、口腔内灼熱症候群と診断された患者56名と年齢と性別をマッチさせ た健常者116名のコントロール群とを比較検討した。その結果、BMS患者に特有の人格傾向として、Novelty Seekingが低い、つまり慎 重になりやすく新しいことに着手しにくいという傾向を見出した(J Psychosomatic Res 78(5): 495-498、2015)。血中ストレス関連物質については、既に収集済みの48症例の血液を用いて各種血中ストレス物質濃度を測定した。抑うつの有無に着目して解析を行ったところ、抑うつ群では非抑うつ群に比して特定のサイトカイン濃度が有意に高値であったが、現時点では各方面からの解析が十分には終了していない。
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今後の研究の推進方策 |
対象患者数150名をめどに症例の集積を続ける。単にデュロキセチンのBMS疼痛症状に対する改善効果を検討するのみならず、薬物代謝の個人差が臨床効果におよぼす影響、併存する抑うつ症状との関連性、BMS患者の人格傾向や養育体験の特徴およびそれらが治療効果 に及ぼす影響、などの様々な観点から統計解析を行う。つまり、薬物治療の観点からだけではなく、心理社会的観点からも、BMSに対 する優れた治療のありかたを検討する。 現在も、新規患者が続々と訪れているため、十分到達可能な目標である。 本研究の成果は、国内外の雑誌、学会などで発表を行っていく。さらに、ウェブサイトでの研究成果を公表し、プレスリリース により国民に向けて研究成果を発信していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
口腔内灼熱症候群に関して、ディユロキセチンの疼痛緩和効果および血中濃度との関連、患者の性格傾向については解析は終了し、論文として発信を終えた。しかしながら、神経炎症関連物質(IL-1β, IL-6, IL-10, IL-17, hsCRP, BDNF, NGF, MCP-1, MIP-1α, MIP-1β, Eotaxin)の血中濃度測定を行ったデータの解析に時間がかかってしまい、期限までに終えることができなかった。解析を継続して結果を発信するために、期間を延長することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
神経炎症関連物質(IL-1β, IL-6, IL-10, IL-17, hsCRP, BDNF, NGF, MCP-1, MIP-1α, MIP-1β, Eotaxin)の血中濃度について、様々な角度からの解析を終えるための費用、そして、研究結果を発信するための学会発表旅費や論文投稿費用に使用予定である。
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