研究課題
今年度は、機能的な線維連絡の障害を反映する安静時機能的MRI(rs-fMRI)データの解析を行った。解析の対象は、大阪大学病院神経科精神科神経心理外来通院中の患者、および健常高齢者ボランティア合計57名(55歳-84歳)であった。参加条件は、①Mini Mental State Examination(MMSE)得点が24点以上、②記憶検査であるWechsler Memory Scale- Revised(WMS-R)の論理的記憶課題の物語Aの遅延再生が以下の基準以上、すなわち教育年数0-9年の人は3点、教育年数10-15年の人は5点、教育年数16年以上の人は9点、③その他の認知機能検査が正常得点、④日常生活を自立して行えている、⑤修正版Hachinskiスコアが4以下である。さらにこれらの被験者に自覚的な物忘れの程度を評価するEveryday Memory Check test (EMC)を施行し、この得点が10点以上のSubjective Cognitive Impairment(SCI)患者と9点以下の健常者とに分類した。その結果、SCI患者は24名、健常者は33名となった。rs-fMR画像の解析は、まずアルツハイマー病に於いて最も初期に機能低下が出現する後部帯状回にseedを置いて、この領域と機能的関連がある部位を探索的に検討し、両群間で比較した。その結果、両側の後部帯状回領域と右前頭眼窩回との機能結合強度が、SCI者では健常高齢者よりも有意に低下していることが明らかになった(p<0.05, FWE corrected)。この結果は、両側後部帯状回を起点としたvoxel-based法でも再現できた。さらにvoxel-based法では、後部帯状回ー左下頭頂葉(ブロードマンエリア40野)の機能的関連がSCI患者で健常者よりも強くなっていた。
2: おおむね順調に進展している
本研究においてこれまでに合計74例のMRIデータを収集した。昨年度は拡散テンソル画像(DTI)データを解析し器質的な線維連絡障害の容態を評価した。今年度は、当初の研究計画の通り、機能的な線維連絡の障害を反映する安静時機能的MRI(rs-fMRI)のデータ解析を行った。また初年度に健常者データは予定よりも多く収集できたため、今年度はSCI患者のデータ収集を重視した。SCI患者は健常者と軽度認知障害の中間の状態であるため、元々症例が少ない。また病院にかかる機会も少ないため、参加者の確保、データ収集について、若干、難渋している。今年度はSCI患者は15例から24例と9例の症例追加にとどまった。この点は今後引き続き、大阪大学病院神経科精神科内、および関連病院に本研究活動をより広く広報し、データ集積につとめる予定である。SCI患者の髄液アミロイドベータ、タウ蛋白測定については、30例分の髄液検体が収集できた時点でまとめて測定するため、今年度の結果報告では解析は行わなかった。髄液検体は、引き続き収集する予定であるが、検査に対して同意を得られないSCI患者も存在するため、今年度からはアミロイドPET検査で代用もはじめている。
引き続き、大阪大学病院神経科精神科神経心理外来通院中の患者を中心に、SCIの診断基準を満たしうる被験者をリクルートし、神経心理検査、臨床評価を行う。またこれらの患者に対して引き続きDTIとrs-fMRI検査を行う。さらに髄液採取を行いアミロイドベータ、タウ蛋白測定を行う。そして症例数を増やして、SCI患者のDTIデータ、rs-fMRIデータを健常者と比較し、かつ同一群内で、DTIデータとrs-fMRIデータ間の比較も行う。さらに髄液検査中のアミロイドベータとタウ蛋白の値、およびアミロイドPET検査の結果からSCI患者をADの前駆段階と考えられる症例と考えられない症例とに分類し、両群間でDTIデータ、およびrs-fMRIデータの比較を行う。研究を進めていく上で、必要に応じて、研究費を執行したため、当初の見込額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度「の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
髄液検体は40検体分集まった時点で一度に測定を行うこととしている。昨年度の研究で、髄液検査を比較的多く行ったため、今年度は検査の回数がやや少なくなった。このため髄液検査キットの購入が少なくなり、次年度に繰り越すこととした。次年度の早い時期に、今年度収集しきれなかった髄液検体を収集し、髄液検査を行う予定である。このため髄液検査キットを次年度早々に購入する予定である。
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