研究課題
基盤研究(C)
研究は予定以上に進展している。大学病院での物忘れ外来を主な研究の場とした。まず虐待スケールに関しては、Revised Conflict Tactic Scale 2 (CTS2)の日本語版を作成し、予備的調査として信頼性を検討した。調査票の信頼性を確認した後に、本格的な施行を開始した。虐待については,新規の患者を対象として全例でCTS2による虐待の評価を臨床心理士が施行し、虐待の頻度と関連する因子を明確にし、論文として報告した(文献1)。具体的な危険因子としては、介護者の性別(男性)・介護者の主観的負担感・患者の問題行動や精神症状・患者の認知機能障害の程度が有意に関連していた。治療同意能力に関しても、治療同意能力の評価法であるMacArthur Competence Assessment Tool-Treatment (MacCAT-T)の日本語版(認知症高齢者向け)を作成し、信頼性の検討を行った。信頼性が高いことを確認した後に、患者および家族(正常高齢者)を対象として実際の調査を開始した。比較的少数での結果であるが、成果を学会で発表した。また、パーソンセンタード・ケアの有用性を評価し、患者の生活の質と密接な関連を有することを明らかにした(文献2)。さらに、物忘れ外来での検討からアルツハイマー型認知症においても、Frontal Assessment Batteryが前頭葉背外側の脳血流と関連を有することを明らかにするなど(文献6)、初年度から予定以上の成果を得ることが出来た。
1: 当初の計画以上に進展している
認知症に罹患した高齢者の人権を守るという視点から研究を行い、多くの成果を得た。まず、認知症高齢者の虐待に関して、信頼性を有するスケールを用いて評価を行い、その危険因子(介護者側・患者側)を明らかにして論文として発表した(文献1)。さらに、治療同意能力に関しても研究を始めており、少数例での検討ではあるものの、学会発表を行った。さらに、パーソンセンタードケアと患者のQOL(quality of life; 生活の質)について、両者の間に密接な関連があることを明らかにし、論文として報告した(文献2)。Frontal Assessment Batteryが前頭葉背外側の脳血流と関連を有することも明らかにした(文献6)。初年度から多くの論文を発表するなど、当初の計画以上に進展している。
平成24年度に得られた結果を基にして、平成25年度も検討をさらに進めていく。虐待については、初年度と同様に、物忘れ外来の初診患者を対象として、ほぼ全例でCTS2を用いた調査を続行する。症例数を蓄積して、初年度の結果が再現されるか否かを検討する。また、CTS2施行から1年が経過した症例に対しては、CTS2による再調査を行う。再調査を行った症例に関しては,初回の調査と1年後の調査を比較することで前向きコホート研究を行うことが出来、虐待発生の危険因子をより明確にすることが可能となる。一方、治療同意能力についても、初年度の研究を続けて、患者および家族にMacCAT-Tを施行し、症例数を蓄積していく。海外でのデータから患者群・正常対照群が30-40例あれば、両群を比較しての検討は十分に可能であり、2年目も継続して検査を実施していく。大学病院の物忘れ外来ということから、障害の程度が軽度な症例が多く受診しており、こうした障害程度が軽度なmild cognitive impairment (MCI)での治療同意能力の研究報告は海外でも未だ少数であり、どういう領域で低下が目立つかを明らかにすることには十分に意味がある。さらに、虐待に密接に関連している介護負担の問題についても、その程度および危険因子を明らかにするべくデータを集めており、詳細を発表したい。また、やはり虐待に関連している患者の精神症状・行動障害に関して、その病態機序を明らかにするために脳血流SPECTを用いた検討を行う予定である。また、大脳白質病変が、脳血流や認知機能と如何なる関連を有するのかも検討していきたい。
平成24年度は、新たな心理検査やアンケート調査を行うために予定していた人員雇用が予定より幾らか少ない金額で済んだために、繰り越し金が生じた。平成25年度は、さらに詳細な心理検査やアンケート調査を遂行するために、心理検査を実施できる臨床心理士を雇用する予定であり、繰り越した金額も含め予算を組んでいる。また、データ管理やデータ入力を実施できる人も雇用する予定である。そのため、かなりの人件費支出を予定しており、予算の多くを占めている。さらに、関連する書籍や文献入手のために予算も計上している。また、学会発表や論文投稿も予定しており、そのための出張費用や雑費も予算に含めている。
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