研究課題/領域番号 |
24591730
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
池淵 恵美 帝京大学, 医学部, 教授 (20246044)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 社会脳 / 社会的機能 / 評価尺度 / パフォーマンステスト / 実世界での機能 / 実施できる能力 |
研究概要 |
統合失調症では就労や交友などの社会機能が障害されるが、社会能力を客観的に測定する標準的なツールはまだ開発されていない。本研究では既存の評価尺度を検討した上で、実世界で求められる能力や、相互交渉を基本とする社会脳の機能を反映する評価システムを開発することが目的である。 初年度はまずこれまで国際的に使用されている社会機能尺度を渉猟し、既存の尺度の構成や評価方法について検討を行った。それにより実世界では支援状況や生活環境が大きな影響を与えることや、内発的動機付け、メタ認知、状況不安や自己効力感などさまざまな要因によって修飾を受けることから、必ずしも実世界での社会機能と、社会脳の実験室での能力測定とは直線的な連関にならない(実世界で実行している機能と実施できる能力とは必ずしも一致しない)ことが明らかになった。研究分担者及び連携研究者による委員会を4回開催し、文献レビューと並行して開発すべき尺度について検討を重ね、社会脳の機能を標準的な実施条件のもとで測定するパフォーマンステスト(実施できる能力)を作成し、同時にメタ認知や内発的動機などを測定することで実世界での社会機能の予測性を高める尺度の開発が望ましいとの結論となった。パフォーマンステストについては、道具的技能を測定する尺度は広く用いられ妥当性の高い尺度が存在する一方で、対人技能についてはそうした尺度が存在しないことが明らかになったため、社会脳の特性を反映し、性・年齢・文化によって大きな影響を受けない普遍的な対人スキルを抽出し、ロールプレイないしは仮想現実の環境の中でパフォーマンスを求め、被験者の対人スキルのcompetencyをはかる尺度の作成を目指すこととなった。 上記の尺度は基礎科学と臨床との橋渡しとなり、社会脳の研究の進展や実世界での障害測定に寄与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年当初の研究計画書においては、3年間で実用的な社会機能の評価尺度を開発することを目標としている。1年目には、既存の社会機能の評価尺度を精査して、社会生活に要請される領域を絞り込み、評価項目を設定する。同時に開発すべき評価尺度の基本設計を行う。2年目には、評価項目それぞれについてのシミュレーション場面を製作する。その際にロールプレイや、コンピュータを用いた仮想現実を採用するなどによって、実生活のダイナミックな社会的交流が再現されるようにする。同時にシミュレーション場面における認知・行動の客観的測定の技術を開発する。3年目には試作版の社会機能評価尺度を用いて、ツールとしての信頼性・妥当性・実用性の検証を行うとともに、神経認知機能や社会認知機能との関連や、実世界での行動観察との関連性を評価する。 すでに研究実績の概要で述べたように、1年目の課題はほぼ達成している状況で、実際の尺度作成に向けて2年目の取り組みをすでに開始している。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は当初の研究計画通り、シミュレーション場面の製作と評価技術の開発を行う。なお初年度には、日本精神障害者リハビリテーション学会に依頼し、社会機能評価についての専門家を10名ほど募り、エキスパートパネルを構成する予定であったが、評価項目を選び出す作業を変更したため、このパネルは構成されず、予算に剰余金が生じ、2年度に繰り越された。2年目の具体的な作業は、普遍的な社会的スキルと考えられ性差や年齢、文化差が小さいと想定される対人スキルをまずいくつか抽出し、フィールドトライアルによって抽出されたスキルの妥当性について検証したい。次に抽出されたスキルでパフォーマンステストを行うために、刺激場面を作成する。その際に対人場面ではロールプレイをビデオ提示することや、社会的問題解決場面ではコンピューターを用いた仮想現実を採用するなどによって、実生活のダイナミックな社会的交流が再現されるようにする。刺激場面は3分程度を目安とする。パフォーマンスはビデオ録画し、認知・行動の社会的妥当性、問題解決の程度、及び相手役に与える社会的効果について測定する項目及び測定方法を開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
すでに前項で記載したように、初年度には、日本精神障害者リハビリテーション学会に依頼し、社会機能評価についての専門家を10名ほど募り、エキスパートパネルを構成する予定であったが、評価項目を選び出す作業を変更したため、このパネルは構成されず、予算に剰余金が生じ、2年度に繰り越された。 2年度の予算はフィールドトライアル、委員会開催(4回予定)、刺激場面の作成、評価方法の開発に用いる予定で、具体的にはトライアル協力者の謝金、研究実施者の賃金、委員会会議費、テスト素材作成のための消耗品費などである。
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