研究課題/領域番号 |
24591732
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
水野 雅文 東邦大学, 医学部, 教授 (80245589)
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研究分担者 |
辻野 尚久 東邦大学, 医学部, 講師 (00459778)
根本 隆洋 東邦大学, 医学部, 准教授 (20296693)
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キーワード | 早期介入 / 統合失調症 / 精神病 / ARMS |
研究概要 |
本研究の目的は,精神病発症危険状態(At-risk mental state; ARMS)にある思春期・青年期の患者の病態変化を前方視的に追跡し,臨床的・機能的転帰を明らかにすること,ならびに,精神病の顕在発症に至る移行例と,発症に至らない非移行例とを比較することにより,より早期段階での判別に有用な症候を,初診時(ベースライン)の各種検査結果から見出すことである。 調査を実施した施設は,東邦大学医療センター大森病院精神神経科の専門外来ユースクリニック,およびデイケアである“イル ボスコ”である。対象者の選択に際しては,統合失調症の前駆期症状スクリーニング(SIPSscreen)(Millerら,2004)を実施し,その結果,精神病の発症危険状態にある可能性が高いと判断されたものに対して,統合失調症前駆症状の構造化面接(Structured Interview for Prodromal Syndromes; SIPS)日本語版を施行し,Yungらの基準に基づいて精神病発症超ハイリスク(Ultra-high risk for psychosis)であるか否かを診断している。 選出された超ハイリスク症例に対し,ベースライン時点において①診断面接と症状評価,②一般精神症状評価としてのZung 抑うつ評価尺度,Leibowitz 社会不安スケール,③病識(SUND-J)と主観的満足度評価(SWNS-J),WHO-QoL,④社会機能評価としてSFS,⑤認知機能検査として各種神経心理検査,⑥背景情報,随時の処方内容,治療内容,家族歴,受診経路などを検討し,さらに1年後時点での変化を同じ検査バッテリーによって測定している。 本研究は,通常の外来診療の中で発症を逃れるように治療,支援しながらの観察研究である。従って登録した対象症例については各主治医のもとで通常の診療を受けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ARMS症例は受診そのものが少なく,症例の登録には常に困難が付きまとうが,本施設においてはARMS症例を見出すためのスクリーニングや診断のための評価体制は整っており,初年度と合わせた本年度までに22症例を登録することができた。 追跡期間中は研究計画書にあるようなさまざま検査を実施し,その病状の変化を追跡する予定であったが,予定検査課題が多く,被験者の中には途中で拒否するものもいた。しかしながら,初年度から本年度までに登録された22症例のうち,本年度中に臨床的・社会的転帰が確認された症例は14症例あり,そのうち顕在発症への移行が確認された症例は6例あった。 対象症例目標は50例であるが,次年度も引き続きこのペースで実施していけば,本研究の主要目的である顕在発症移行例と非移行例の比較について,統計的検定に必要な症例数を確保することが出来る見込みである。しかし前述のように追跡途中で脱落する症例は予想以上にあること、若年であり1年後の追跡調査を求める本研究には同意を得にくいこと、ARMSという希少な対象においては外来受診数にムラがあることなどから、目標症例数への到達には困難が予想される。研究のまとめにおける考察に際しては症例数の少なさを補うためにも、既存症例の基礎データを検討した自らの先行研究も参考にしつつ,定性的な分析を加えるなどして初期の目標を達成できるように検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
本検査の対象となる被験者は平均年齢約20歳(範囲15~34歳)の若者であり,さまざまな精神不調に悩んでいる場合が多い。これに対して検査バッテリーは比較的大きく,検査に時間を要することから,平素の生活よりは忍耐と集中が求められる。また課題も,どちらかといえば被験者にとって苦手なものが多いはずであるから,ときとしていったん同意しても実施に際して必ずしも積極的であるとは限らない。 次年度中に1年後評価を迎える症例については,出来る限りもれなくデータを取得できるよう,研究の実施に関するマネジメント体制を整えていく。また,今後も研究参加者に対しては,思春期心性などに十分配慮したうえで,研究および検査の意義を丁寧に説明し,結果についてもできるだけ速やかに本人にフィードバックするなどして協力を促していく。 対象症例の調査機関である東邦大学医療センター大森病院には心療内科、小児科が併設されており、自他覚症状の乏しい比較的軽症の初診患者の受診に際してはより精神神経科よりもスティグマの低い心療内科を受診する傾向がある。そこで当該診療科医師ならびに受診相談受付に対して、ARMS症例の特徴を記載した説明書を配布し、精神神経科受診を勧めていただくよう手配済である。 本研究の最終年度となる次年度においては,最低30症例の臨床的・社会的転帰を確認し,精神疾患への移行例と非移行例の早期段階おける症候の違いについて,量的および質的に検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究協力者の勤務時間帯などの都合が本研究遂行時間と一致せず、結果的に人件費の支出が予想を下まわったためと考える。 成果発表のために国際学会参加の旅費や参加費として約40万円、登録症例数増加をはかるため人件費にさらなる支出を予定している。
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