研究実績の概要 |
最終年度には、下記1),2)を中心に解析を進めた。1) HEK293T細胞での高発現系を用いた免疫沈降実験の結果、DISC-Mは、LHXファミリー、SSBPファミリー、LMOファミリーといったタンパク質群と機能的複合体を形成することが明らかになった。これらの遺伝子の脳内発現パターンはDISC-Mと重なる部分が大きいことから、脳内においても機能的転写調節複合体を形成しうることが判明した。一部の双極性障害で見出したDISC-Mのミスセンス変異の影響を検討したところ、そのうちの一つはDISC-Mタンパク質の安定性に影響を与えた。一方で、これらのミスセンス変異は、上記タンパク質との結合には明瞭な効果を及ぼさなかった。2) 発端患者のゲノム構造をFISH実験と次世代シークエンサ解析により詳細に検討し、4番染色体側の切断点はDISC-M遺伝子のexon 1上流約30kbpに存在することが判明していた。つまりこの均衡型転座により、DISC-M遺伝子の本体は直接破壊されてはいないが、DISC-M遺伝子は転座点から最も近傍の遺伝子であり、転座により本遺伝子の転写調節に何らかの異常が起こり、それにより統合失調症発症に重要な影響を与えたものと考えられた。その仮説を検証するため、患者体細胞からiPS細胞を樹立し、そこから神経系細胞の幹細胞を豊富に含むneurosphereを作製、転写物をRT-PCRにより解析したところ、転座染色体からの転写物の量が正常染色体側からのものより数倍多かった。これらのことから、1)本均衡型転座によりDISC-M遺伝子の異常な転写量増加が生じた結果DISC-Mタンパク質が関連する複数の転写複合体のバランスに乱れが生じ、2)その結果として様々な遺伝子の発現以上が誘導され、3)そのアウトプットとして脳発生の異常、さらには統合失調症の発症へつながる、というシナリオが想定された。
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