研究課題
自閉症スペクトラム症(ASD)児20名およびnon ASD児45名を対象に研究を実施した。神経生理学的検査として、聴覚性驚愕反射(ASR)検査・脳波事象関連電位・脳磁図検査を実施した。ASR検査では、プレパルスは含まず様々な音圧の聴覚刺激を用いた単純なASR課題と、プレパルス・インヒビションや馴化などのASRの制御機構の評価を目的とした課題の2種類を実施した。脳波事象関連電位として、ミスマッチ・ネガティビティ(MMN)検査・定常ガンマ律動検査・開閉眼検査も実施した。ASD11名、non ASD23名に関しては、2年目の評価も行った。10歳以上の児童(ASD8名・non ASD22名)においては、より正確な活動源推定のため、脳磁図を用いて、MMN検査や定常ガンマ律動検査も実施した。これら神経生理学的指標と、対人応答性尺度(SRS)で評価される定量的自閉症特性や子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)で評価される情緒と行動尾問題などの臨床指標との関連についても検討した。単純なASR課題において、ASDではnon ASDに比べ、ASRの潜時が延長し、また微弱な刺激に対するASRが増大しており、さらにASRのこれらの指標は、いくつかの自閉症特性と相関を認めた。また、ASDにおいてASRの馴化やPPIの有意な減弱は認めなかったが、SDQ総得点は、PPIと関連を認めた。脳波においては、定量的自閉症特性が右下前頭回におけるMMNの電位源と負の相関を認め、脳磁図検査に関しては、ASD児や自閉症特性の高いnon ASD児では、自閉症特性の低いnon ASD児で認められる左側優位の側性を認めなかった。聴覚性驚愕反射およびその制御機構が、ASDの自閉症特性や情緒の問題などの臨床指標と関連する可能性が考えられた。また、単純な聴覚誘発反応を用いた脳波・脳磁図による指標が、ASD児の聴覚情報処理機能の非定型性を評価する上で有用である可能性が考えられた。
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