研究課題/領域番号 |
24591790
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
高梨 潤一 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (00302555)
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研究分担者 |
寺田 一志 東邦大学, 医学部, 教授 (90227520)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | MRスペクトルスコピー / マウスモデル / 先天性大脳白質形成不全症 / Pelizaeus-Merzbacher病 / 副腎白質ジストロフィー / 18q-症候群 |
研究実績の概要 |
1. 平成26年度は、本研究で検討した二種の先天性大脳白質形成不全症モデルマウス(Msdマウス [PLP遺伝子欠損]、Shivererマウス[MBP遺伝子欠失])のMR spectroscopy (MRS) 所見 (J Magn Reson Imaging 2012, J Magn Reson Imaging 2014) の相違を病理学的所見から検討した。N-acetylaspartate (NAA) 値はNAA代謝の場である成熟乏突起膠細胞(mature oligodendrocyte)の有無によること、すなわち成熟乏突起膠細胞を欠くMsdマウスではNAA高値となり、存在するShivererマウスではNAA正常であることを見出した。本研究からCho 低下が先天性大脳白質形成不全症におけるMRS上の基本的な脳化学異常であることが確認された。本研究成果はヒト大脳白質形成不全症の診断に直ちに応用可能であり、治療効果判定・病態解明に応用可能である。また、MPB遺伝子をヘテロで欠損するヒト18q-症候群(Shivererマウスはホモ欠損)におけるMRS所見から、18q-症候群では脱髄の関与が疑われることを報告(Brain Dev 2014)した。 2. 副腎白質ジストロフィーモデルマウスであるABCD1 knockoutマウスをMRSで検討した。本マウスはABCD1蛋白が検出されず、血漿中極長鎖脂肪酸上昇が確認されているが、明らかな神経症状を呈さない。MRS、病理学的検討でも明らかな異常を認めず、ABCD1 KOマウス脳に明らかな脱髄は生じていないことが確認された。マウス寿命は2年と短く極長鎖脂肪酸の異常があったとしても、その程度の期間では脱髄が起こらない、ないし極長鎖脂肪酸の異常から脱髄が起こるまでの機序にヒトとマウスで違いがある可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24, 25年度の2年間で大脳白質形成不全症モデルマウス(Msdマウス、Shivererマウス)の脳化学を解明し得た。すなわちCho低値、NAA高値ないし正常であることが大脳白質形成不全症脳代謝の特徴であり、我々がヒトPelizaeus-Merzbacher diseaseで得た結果 (Neurology 2002) を支持する所見であった。平成26年度はさらにNAAの相違を病理学的に検討し、成熟乏突起膠細胞の有無が関係していることを明らかにした。研究成果は第42回日本磁気共鳴医学会大会・シンポジウムで「小児神経疾患における proton MRSの臨床応用」, 20th Symposium Neuroradologicum で「Neurochemistry in hypomyelination depected on MR spectroscopy」として発表し、日本磁気共鳴医学会学会誌である J Magn Reson Sciに受理されている。 脱髄性疾患の代表である副腎白質ジストロフィーのモデルマウスであるABCD1 knockoutマウスのMRS解析を検討した。本マウスは血漿中極長鎖脂肪酸上昇が確認されているが、明らかな神経症状を呈さない。MRS、病理学的検討でも明らかな異常を認めず、ABCD1 KOマウス脳に明らかな脱髄は生じていないことが確認された。脱髄性疾患の検討のために、新たな脱髄モデルマウスの検討を予定している。 ABCD1 knockoutマウスのMRS解析終了後、グルタミン酸トランスポーター(GLT1)induced knock-out (iKO) マウスのMRS検査が進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度で先天性大脳白質形成不全症モデルマウス (Msdマウス, Shivererマウス) 、脱髄性疾患の代表である副腎白質ジストロフィー(ALD)モデルマウス(ABCD1遺伝子KOマウス)を用いた MRS解析は終了した。平成27年度は同様の方法で グルタミン酸トランスポーター(GLT1)induced knock-out (iKO) マウスを検討する。グルタミン酸は主要な興奮性神経伝達物質であり、過剰なシナプス内グルタミン酸は、グルタミン酸受容体の活性化により神経細胞障害(グルタミン酸興奮毒性)を引き起こし、種々の神経疾患の発症増悪に関与する。シナプス内のグルタミン酸濃度は、主にアストロサイトに存在する2種類のグルタミン酸トランスポーター(GLAST,GLT1)により制御されている。GLT1 iKOマウスの解析から興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸が中枢神経に及ぼす代謝変化・病態の解明する。平成27年度も中枢神経系の画像診断を専門とする東邦大学医学部・寺田一志教授を分担研究者として研究を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物MRSに関する最先端の情報収集、研究者との討論のため、研究代表者は国際磁気共鳴医学会 (ISMRM) に、研究分担者(寺田一志)はアメリカ神経放射線学会 (ASNR) に参加し旅費支出が増えた。一方で、マウス脳免疫染色試薬などの新規購入が不要となり物品費が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は本研究の最終年度となり、研究成果の報告、最先端の実験動物 MRSに関する情報収集、研究者との討論のため欧州神経放射線学会 (ESNR イタリア・ナポリ) への参加を予定し、そのための旅費支出を予定している。物品費としてMR試薬購入のための支出、マウスモデル脳の病理解析のための支出などを予定している。分担研究者(東邦大学医学部・寺田一志教授)も同学会へ参加しともに情報収集、討論に当たる予定であり、研究費(300,000円)を支出する。
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