本研究の目的は、これまでの臨床経験および研究を組み合わせることにより、新たな静脈血栓症の治療、管理を確立することである.カテーテルによる局所投与はいわゆる究極のドラッグデリバリーシステムであり、この手技と遺伝子過剰発現を組み合わせることにより、これまでにない治療法の確立が可能となる.局所遺伝子発現は局所の血栓形成を抑制可能であり、かつ全身の合併症発生を抑制可能であることをこれまでの検討により示すことができたが、これまでは正常血管壁に抗血栓因子を過剰発現させた後に血栓形成を惹起して検討してきた.より臨床応用を目指すためには、血栓溶解術後に抗血栓因子を過剰発現させ、静脈血栓形成を抑制する検討が必要である.本研究ではラット血栓形成モデルにて血栓溶解を行った後、抗血栓因子の分子を標的としてこれらの遺伝子を過剰発現させることにより、局所での静脈血栓形成を抑制することを検討する. 平成24年度には、初年度としての実験計画に基づき、目的遺伝子の発現プラスミドおよびこれらの遺伝子組換えアデノウイルスを作製、精製、力価確認を行った.また、生体外実験として培養細胞を用いた遺伝子導入による蛋白の発現量および活性の評価、細胞機能への影響評価を行った.蛋白発現はRT-PCRによるRNA評価、ウエスタンブロットによる蛋白評価で確認した.活性は採取血液を用いた血小板凝集実験にて評価した.作製が確認されたものに関しては良好な結果が得られた. 平成25年度には、この生体外での実験結果および実験計画に基づき、まずラットでの静脈血栓モデル作製、血栓評価を行った.SDラットの下大静脈を麻酔下で露出し、結紮により静脈血栓モデルの作製を行った.また、一部に対して組換えアデノウイルスを用いて遺伝子導入を行った.静脈血栓に関しては、血管結紮により今後の実験で評価可能なレベルで静脈血栓が形成されることが確認された.
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