研究課題
基盤研究(C)
現在PET診断には11C、13N、15O、18Fで標識した薬剤が利用されているが、これらは半減期が2~110分と短く、18F-FDGを除き、施設内サイクロトロンの設置を必要とする。本研究では半減期の比較的長い64Cu(T1/2 = 12.8時間)標識診断薬剤を開発することでPETの利用拡大を目指す。まず光線力学療法に使用されているヘマトポルフィリン(HP)をキャリアーとして使用し、64Cu標識HP(64Cu-HP)の合成、標識法の検討を行った。その結果、ヘマトポルフィリン5 - 10 mgに64Cu約250 MBqを加え、40℃で1.5時間反応し、64Cu-HPを得ることに成功した。標識率は90 - 95%であった。次いでMDA-MB-231ヒト乳腺がん細胞、LS180ヒト結腸腺がん細胞、SCC-7マウス扁平上皮がん細胞を培養し、ヌードマウスの腹側部に移植し、64Cu-HPの腫瘍集積性について予備的な検討を行った。腫瘍が約1 cmに成長するのを待って(2 - 3週間)64Cu-HPを尾静脈より投与し、24時間後に動物用高分解能PET装置を用いてインビボイメージング実験を実施した。その結果、いずれのがん細胞においても64Cu-HPの集積が認められ、64Cu-HPを用いたがん診断の可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
24年度は64Cu-HPの標識方法の検討を行い、得られた化合物についてその物理化学的性質を明らかにする予定であった。今回得られたCu-HPは、pH 7.4における溶解度が511 ± 41 (μg/mL)、LogD値が1.02 ± 0.01であり、水溶性が低く、動物実験への適用が容易とは言い難いものであった。それ故標識率も若干低いものとなったが、64Cu-HPの腫瘍集積性を明らかにするため、種々の担がんモデルマウスを作製し、動物用高分解能PET装置を用いてインビボイメージング実験を行った。その結果、各々のモデル動物において64Cu-HPの腫瘍集積を認め、64Cu-HPのPET用がん診断薬剤としての可能性が示されたが、同時にその脂溶性に基づく肝臓などへの高い集積が明らかとなった。この脂溶性の高さは薬剤投与時にも問題となるため、物理化学的性質を改善し、腫瘍集積性、腫瘍選択性の向上を図る必要があるものと考えられた。
担がんモデルマウスによるインビボイメージング実験の結果から、64Cu-HPは腫瘍への集積性を示したが、同時に脂溶性に基づく肝臓などへの非特異的集積を認めた。この脂溶性の 高さは薬剤投与時にも問題となるため、HPに種々の修飾基を導入し、得られる誘導体の物理化学的性質の改善と腫瘍集積性、選択性への影響について調べていく。またこれまでの結果からHPの腫瘍への集積は予想したほど高くなく、物性の改善により非標的組織への集積を軽減できたとしても、さらなる集積量の増加を図ることが重要と考えられる。そこで他の腫瘍集積機序に基づく機能を付加することで集積性、選択性の向上を目指す。すなわち細胞接着分子であるインテグリンへの親和性を有するRGDペプチドの導入、EPR効果による腫瘍集積を期待した多量体の利用などにより、64Cu-HP誘導体の主要集積がどのように改善されるかを検討する。64Cu-HP誘導体のがん診断薬剤としての有用性が得られれば、さらに脳腫瘍モデル、炎症モデルを作製し、現在がん診断薬として汎用されている18F-FDGでは診断が困難な脳腫瘍や炎症との鑑別診断への適用性について検討を行っていく。
64Cu-HPの物理化学的性質の改善のため、種々の修飾基を導入した誘導体を合成し、物性の評価と動物実験による腫瘍集積性、腫瘍選択性の評価を行っていく。まず修飾基としてアスパラギン酸、TRISを用い、HPのアスパラギン酸誘導体、TRIS amide体、TRIS ester体などを合成し、その物性を調べるとともに、MDA-MB-231移植ヌードマウスを用いてその腫瘍集積性を評価する。各々について臓器摘出法による動物体内分布実験を行うとともに、動物用高分解能PET装置を用いてインビボイメージング実験を実施する。
すべて 2013 2012
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Cancer Immunol. Immunother.
巻: 61 ページ: 1211-1220
10.1007/s00262-011-1186-0