研究課題/領域番号 |
24591826
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
菊池 達矢 独立行政法人放射線医学総合研究所, 分子イメージング研究センター, 主任研究員 (90392224)
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キーワード | PET / 多剤耐性関連タンパク質 / 有機アニオントランスポー タ / 馬尿酸 / 脳 / 心臓 |
研究概要 |
本研究の目的は、脳に存在する多剤耐性関連タンパク質4(MRP4)の活性を定量測定し得る放射性プローブの開発である。平成24年度では、まずC-11で標識した種々の馬尿酸誘導体のエステルを設計および合成し、各化合物の脳内加水分解速度および脳移行性に関する構造活性相関について、インビトロおよびインビボにおいて検討を行った。そして、最終的にC-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルを有力な候補化合物として得た。そこで平成25年度では、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルの脳内動態について、MRP4ノックアウトマウスおよび、MRP4と同様に有機アニオンを脳から排出する有機アニオントランスポータ3(OAT3)をノックアウトしたマウスを用いて検討を行った。MRP4ノックアウトマウスにC-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルを投与した後の脳内放射能動態は、野生型のマウスに投与した場合と同様の動態を示したが、心臓では有意な放射能消失速度の減少が観察された。一方、OAT3ノックアウトマウスに投与した場合には、野生型のマウスに投与した場合と比較し、有意な脳内放射能消失速度の減少が観察された。野生型マウスおよびノックアウトマウスに投与後の脳および心臓の組織中における化学形の検討から、これらの組織中放射能動態の変化は、代謝物の流出速度の変化によるものであることが示された。すなわち、マウスにおいてC-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルは脳のOAT3および心臓のMRP4の活性を定量測定し得るPETプローブであることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の計画では、脳のMRP4活性を定量測定し得る放射性プローブの有力な候補を構造活性相関に基づいて絞り込むことであったが、当初の計画通り、インビトロおよびインビボにおける検討から、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルが有力な候補化合物であることを見出すに至った。平成25年度では本研究目的を達成すると期待される当該候補化合物を、有機アニオントランスポータをノックアウトしたマウスを用いて検討した。その結果、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルはマウスにおいて脳のOAT3および心臓のMRP4の活性を定量測定し得るPETプローブであることが示された。C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルを投与後の放射能の消失速度は、心臓のMRP4の活性に応答することから、これまで文献に報告されているように脳における有機アニオンの動態にMRP4が大きく関与しているならば、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルを投与後の脳における放射能動態もMRP4活性に応答すると考えられる。しかしながら、本研究結果は、少なくともマウスにおいては脳からの馬尿酸の排出に対するMRP4の関与は小さいことを示唆した。ただし、この脳内動態のMRP4活性に対する低い応答性は、馬尿酸のMRP4特異性が低いことが原因である可能性もある。 そこで、馬尿酸ベンジルエステルと同様に脳内で有機アニオンを生成する放射性医薬品(Tc-99m標識ECD)をMRP4ノックアウトマウスおよびOAT3ノックアウトマウスに投与したところ、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルを投与した場合と同様に、その脳からの放射能の消失速度はOAT3ノックアウトマウスにおいてのみ顕著に低下した。このことから、マウスの脳のMRP4は、有機アニオンの排出に大きくは関与しない可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の検討結果は、少なくともマウスにおいては脳からの有機アニオンの排出に対するMRP4の関与は小さいことを示唆した。ただ、馬尿酸ベンジルエステル投与後の脳内放射能動態がMRP4活性の変化に応答しないことは、組織内で生成する馬尿酸のMRP4特異性が低いことに起因する可能性もある。そこで平成26年度では、脳における種々の薬物排出トランスポータ発現割合および発現量がマウスとは異なるサルを用いた検討を行なう。その結果、MRP4特異性に問題があることが示唆された場合には、プローブを再設計しこれまでと同様の検討を行なう。また、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルでは脳のMRP4活性は測定できないという可能性があるものの、心臓のMRP4活性を測定し得るプローブである可能性がある。そこで、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルをサルに投与後の、心臓における放射能動態の検討も行なう。さらに、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステル投与後のOAT3ノックアウトマウスにおける脳内動態は、脳血流測定用放射性医薬品である99mTc-ECDの脳内動態に酷似していることから、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルもPETによる脳血流測定に使用可能なプローブである可能性がある。そこで、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルをサルに投与後の、脳内放射能動態と局所脳血流との相関関係に着目した検討も行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
端数として極少額の余剰が発生したため。 平成25年度から平成26年度に繰り越す研究費は、それ単独で研究が遂行できるほどの額ではなく、端数として生じた極少額であることから、平成26年度交付分と併せ、計画通り研究を推進する。
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