研究課題/領域番号 |
24591826
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
菊池 達矢 独立行政法人放射線医学総合研究所, 分子イメージング研究センター, 主任研究員 (90392224)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | PET / 多剤耐性関連タンパク質 / 有機アニオントランスポータ / 馬尿酸 / 脳 / 心臓 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、脳に存在する多剤耐性関連タンパク質4(MRP4)の活性を定量測定し得る放射性プローブの開発である。平成24・25年度の検討では、C-11で標識した種々の馬尿酸誘導体のエステルを設計および合成し、各化合物の脳内加水分解速度および脳移行性に関する構造活性相関について、インビトロおよびインビボにおいて検討を行った。そして、最終的に有力な候補化合物として得たC-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルをMRP4ノックアウトマウスおよび、MRP4と同様に有機アニオンを脳から排出する有機アニオントランスポータ3(OAT3)をノックアウトしたマウスを用いて検討を行ったところ、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルは、マウスにおいては脳のOAT3および心臓のMRP4の活性を定量測定し得るPETプローブであることが示された。そこで平成26年度では、サルを用いてC-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルの検討を行ったところ、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステル投与後の脳からの放射能の排出速度は極めて遅かった。しかしながら、この脳における動態は、本化合物によりPETを用いて脳局所血流を測定し得ることを示唆した。一方、心臓においてはその排出速度は極めて速く、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルは、サルにおいては脳および心臓の有機アニオン排出トランスポータの活性測定に適さないことが示された。そこで、C-11で標識したN-メチル馬尿酸ベンジルエステルのサルにおける動態を検討したところ、脳については前記化合物と同様であったが、心臓および肺においては有機アニオン排出トランスポータの活性測定に適した排出速度を示した。すなわち、C-11で標識したN-メチル馬尿酸ベンジルエステルは、サルにおいては局所脳血流および心臓/肺のMRP4の活性を定量測定し得るPETプローブであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度の計画では、当初の計画通り、脳のMRP4活性を定量測定し得る放射性プローブの有力な候補を構造活性相関に基づいて絞り込み、インビトロおよびインビボにおける検討から、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルが有力な候補化合物であることを見出すに至った。そこで平成25年度では当該化合物について、有機アニオントランスポータをノックアウトしたマウスでの脳内動態をPETにより検討することを計画した。その結果、当該化合物はマウスにおいて脳のOAT3および心臓のMRP4の活性を定量測定し得るPETプローブであることが示された。一方、本研究結果は、少なくともマウスにおいては脳からの有機アニオンの排出に対するMRP4の関与は小さいことを示唆した。そこで平成26年度では、脳における種々の薬物排出トランスポータ発現割合および発現量がマウスとは異なるサルを用いた検討を行なうことを計画した。その結果、当該化合物では本研究課題を達成するには不十分であることが判明した。このことは、本化合物の性質の他に、本課題が対象とするMRP4の基質特異性等にも問題がある可能性を示唆した。そこで計画に従い、新たな候補化合物の探索を行うことに加え、有機アニオンの血液脳関門を介した動態に関する調査を行っている。一方、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステル誘導体では脳のMRP4活性の測定は困難であることが判明したものの、心臓のMRP4活性を測定し得る有力なプローブ候補であることを示唆する結果も得ていた。そこで、計画に従いC-11で標識した馬尿酸ベンジルエステル誘導体をサルに投与後の心臓における放射能動態の検討を行ったところ、C-11で標識したN-メチル馬尿酸ベンジルエステルはサルにおいて局所脳血流および心臓/肺のMRP4の活性を定量測定し得るPETプローブであることが強く示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討結果は、馬尿酸およびその誘導体の脳からの排出に対するMRP4の関与は小さいことを示唆した。このことは、脳におけるMRP4の発現量もしくは局在に起因する可能性があるが、馬尿酸およびその誘導体のMRP4に対する特異性が低いことに起因する可能性もある。そこでMRP4の基質として知られる非ステロイド性消炎鎮痛剤などの誘導体を脳で生成する新たな候補化合物の探索を行う。一方、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルおよび誘導体は、PETによる脳血流測定に使用可能なプローブであることが示唆された。通常、臨床において脳血流測定に用いられる放射性医薬品は比較的分解能の低いSPECT用の薬剤であることから、より分解能の高いPET製剤の開発も重要であると考えられる。そこで、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルをサルに投与後の、脳内放射能動態と局所脳血流との相関関係をより詳細に検討する。しかしながら、C-11の短い半減期は一般利用に制限を与えることから、より半減期の長いF-18で標識した薬剤の方が望ましい。本課題で設計した馬尿酸エステル誘導体は、将来的なF-18標識を見越したものであり、比較的容易にF-18で標識可能と考えられる。そこで、F-18で標識した馬尿酸エステル誘導体を合成し、脳局所血流を測定するためのプローブとしての性能評価を行う。さらに、これまでの検討から馬尿酸エステル誘導体は心臓および肺のMRP4の活性を定量測定し得るPETプローブであることが強く示唆されていることから、F-18で標識した化合物についてもこの点に注目した検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの検討結果から選定した化合物の検討を進めてきたが、当該化合物では本研究課題を達成するには不十分であることが判明した。そこで平成26年度では計画に従い新たな候補化合物の探索を行うことに加え、有機アニオンの血液脳関門を介した動態に関する調査を行う必要性が生じたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の研究の推進方策に記したように研究を推進するとともに、これまでの結果の誌上発表を平成27年度に行うこととし、研究費はその経費に充てることとしたい。
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