本研究の目的は、脳に存在する多剤耐性関連タンパク質4(MRP4)の活性を定量測定し得る放射性プローブの開発である。平成24・25年度の検討では、C-11で標識した種々の馬尿酸誘導体のエステルを設計および合成し、各化合物の脳内加水分解速度および脳移行性に関する構造活性相関について、インビトロおよびインビボにおいて検討を行った。そして、最終的に有力な候補化合物として得たC-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルをMRP4ノックアウトマウスおよび、MRP4と同様に有機アニオンを脳から排出する有機アニオントランスポータ3(OAT3)をノックアウトしたマウスを用いて検討を行ったところ、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルは、マウスにおいては脳のOAT3および心臓のMRP4の活性を定量測定し得るPETプローブであることが示された。そこで平成26年度では、サルを用いてC-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルの検討を行ったところ、C-11で標識した馬尿酸ベンジルエステルはサルにおいては脳および心臓の有機アニオン排出トランスポータの活性測定に適さないことが示された。そこで、C-11で標識したN-メチル馬尿酸ベンジルエステルのサルにおける動態を検討したところ、脳については馬尿酸ベンジルエステルと同様であったが、心臓および肺においては有機アニオン排出トランスポータの活性測定に適した排出速度を示したことから、C-11で標識したN-メチル馬尿酸ベンジルエステルは、サルにおいては局所脳血流および心臓/肺のMRP4の活性を定量測定し得るPETプローブであることが示唆され、C-11で標識した化合物について本課題の目標を概ね達成することが出来た。そして平成27年度には、以上の結果を踏まえ、C-11より半減期が長いことから一般に利用しやすいF-18で標識した馬尿酸ベンジルエステル誘導体へと展開した。
|