研究課題
昨年度に引き続き、マウス由来筋芽細胞株C2C12を用い、γ線照射によって筋管形成が阻害される現象に対する、線維芽細胞増殖因子(FGF-2)、肝細胞増殖因子(HGF)の影響を評価した。筋芽細胞株C2C12に2 Gyまたは4 Gyのγ線を照射後、いずれかの増殖因子の存在下で筋管への分化誘導を6日間行い、6日間の分化誘導後、筋管形成の度合いを抗ミオシン重鎖抗体による蛍光免疫染色によって評価した。DAPIによる核染色の結果から、放射線照射によって減少した細胞増殖に対するFGF-2の増殖効果は非常に強力であったが、増殖能への影響が強力過ぎて分化誘導を阻害してしまっていることが明らかとなった。HGFは、2 Gyのγ線照射であれば十分な防護効果を有していたが、4 Gyに対しては、防護効果は不十分であった。この成果は、日本放射線影響学会年次大会で発表し、現在英語学術論文としてまとめている。γ線照射によって筋芽細胞からの筋管形成が阻害されるメカニズムの解析を、リアルタイムRT-PCRを用いた遺伝子解析によって行った。6日間分化誘導後の遺伝子発現状況の解析から、MyoD1、Myf5、Myf6の発現が2 Gy照射後の筋管形成状況と非常に良く相関することが判明した。しかしながら、4 Gy照射では、筋管の形成状況と遺伝子発現状況とに明瞭な相関がみられず、今後の課題である。経時変化データを加味し、さらに上流の遺伝子群も解析することで、メカニズムをより詳細に明らかにし、芽細胞系におけるγ線応答の特徴を明らかにすることができると考えられる。
3: やや遅れている
γ線照射を名古屋大学コバルト60照射室で行っているが、名古屋大学での平成25年度申請予算が通り、施設の耐震工事が始まっている。このため、約3か月間γ線の照射ができず、検討がやや遅れ気味である。
平成26年度は、データが揃い状況が明らかになっている放射線誘発筋管形成阻害に対して、FGF-2、HGFがどのような影響を及ぼし得るのかに関する検討を論文としてまとめ、さらに、FGF-2とHGFの併用効果の潜在性について、蛍光免疫染色の手法と蛍光免疫染色像をImageJによって解析する手法を用いることによる確認実験を行う予定である。放射線誘発筋管形成阻害のメカニズム研究に関しては、分化誘導6日後の遺伝子発現解析だけでなく、放射線照射直後から2日程度までの早期データを加味して検証する予定である。また、平成25年度で検討した遺伝子群よりもさらに上流の遺伝子、幹細胞系で応答に影響が示唆されている遺伝子、DNA修復遺伝子への影響を検討し、芽細胞系のγ線応答システムの特徴を明らかにし、防護方法の提案に繋げる予定である。筋芽細胞の分化段階、γ線照射前の遺伝子発現状況の違いが、放射線誘発筋管形成阻害の度合いに与える影響に関する研究では、度合いの違いにクリティカルに効いている因子を明らかにして、論文としてまとめる予定である。
今年度末に、γ線照射を行っている名古屋大学のコバルト60照射室の耐震工事が着工されたために、予定していた実験の一部を来年度に変更した。そのために、次年度使用額が生じた。細胞培養に関連する基本消耗品(培地、牛胎仔血清、増殖因子、プラスチックピペット、遠心沈降管、培養用ディッシュ、培養用プレートなど)に支出する。主な評価方法であるRT-PCR関連消耗品(RNA抽出用細胞破砕カートリッジ、カラム式RNA抽出キット、逆転写反応試薬、リアルタイムPCR試薬、PCRプライマーなど)、蛍光免疫染色試薬(1次抗体、2次抗体、核染色試薬、マウント剤、スライド、カバーガラス、ハロゲンランプなど)に支出する。第57回日本影響学会年次大会での成果発表を予定しているので、鹿児島への出張旅費に使用する。英文での論文発表を進めるので、英文校正費に支出する。研究を加速するために、現在手狭である二酸化炭素インキュベータを購入する予定がある。
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Journal of Radiation Research
巻: 54 ページ: 1005-1009
10.1093/jrr/rrt063