研究課題/領域番号 |
24591849
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
鍵谷 豪 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (30524243)
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研究分担者 |
小川 良平 富山大学, その他の研究科, 講師 (60334736)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 低酸素領域 / アポトーシス / 可視化 |
研究概要 |
固形腫瘍には細胞増殖と血管新生の不均衡に起因する低酸素領域が存在する。この領域の細胞は,放射線や抗がん剤に対し抵抗性であるため治療後に残存する可能性が高く,再発や転移の原因として問題視されている。つまり,この低酸素細胞領域の根絶は,がん治療において大きな意味を持つ。本研究の目的は,低酸素領域内で引き起こされる細胞死,アポトーシスを可視化するシステムを構築し,抗がん剤等による殺細胞効果の増強を生体レベルで非侵襲的かつリアルタイムに評価することである。この目的を遂行するため,今年度,我々はカスパーゼ3の活性化を指標としたアポトーシス可視化システムの構築とその特性を評価した。アポトーシスシグナルを受け,その構造を活性型に変化したカスパーゼ3はアミノ酸配列であるDEVD(1文字表記)を認識し切断する。NDSドメインとはプロテアソームによるタンパク分解促進ドメインとして知られ,これを付加したタンパクの細胞内発現量は著しく低下する。つまり,化学発光を触媒するルシフェラーゼ(Luc)の下流にDEVD,その下流にNDSドメインを付加したNDS付加型Lucは,アポトーシス実行時にのみ,NDSドメインがLucから解離し分解を逃れ,細胞内の発光量を増大させると考えられる。予測どおり,アポトーシス誘導抗がん剤,エトポシドとスタウロスポリンの濃度依存的に発光量の増大が確認された。カスパーゼ3欠損細胞株を用いた場合,抗がん剤添加による発光量の増大は認められず,NDS付加型LucのDEVD配列がカスパーゼ3に認識され,またNDSドメインも機能している事が示された。次に,このシステムを用いin vitroでのアポトーシス細胞のイメージングを試みた。その結果,エトポシド添加細胞群は非添加細胞群と比較し,明らかに強い発光を示すアポトーシス細胞のイメージングに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
化学発光イメージング装置を用いアポトーシス細胞のin vitroでのイメージングに成功した。しかし,このNDS付加型Luc可視化システムはLucの細胞内蓄積を必要とするため,細胞内蓄積Luc量が少ないアポトーシス初期は発光が弱く,実験に用いたイメージング装置ではリアルタイムに可視化出来ないことが判明した。つまり,このシステムを用い生体腫瘍内でのアポトーシス細胞のイメージングの可能性を考えた場合,アポトーシス細胞は細胞内にLucを蓄積する前にマクロファージ等の貪食細胞により速やかに貪食処理,排除されるため,イメージングは難しいと予想される。上記問題解決のためプロテインスプライシングを用いた非侵襲的リアルタイムにアポトーシスを可視化する新システムを導入する必要がある。このため,計画より実験進行がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
NDS付加型Lucシステムは,アポトーシス実行後,細胞内にLucが蓄積しアポトーシスを可視化する。しかし,アポトーシス初期では細胞内のLuc蓄積量が少ないため,弱い発光となり使用した化学発光イメージング装置ではリアルタイムに可視化できないことが判明した。生体内のアポトーシス細胞の貪食処理は短時間におこなわれるため,アポトーシス初期過程の可視化は克服すべき課題である。このため,Lucの蓄積を必要としない新たな可視化法を導入する。プロテインスプライシングとは,プロテインスプライシング配列で挟まれたペプチドを取り除き,アミド結合で連結する一連の反応である。つまりLuc遺伝子の両端にその配列を連結すると翻訳後,環状型Lucを構築することが出来る。この環状型Lucは,立体構造変化により野生型Lucと比較し発光活性は低い。また,Lucを2断片化し,その配列間にカスパーゼ3認識配列であるDEVDを挿入すれば,環状型Lucがアポトーシス実行時にのみ切断され,線状型Lucを再構成する。この環状型Lucの発現には,低酸素に対し高い誘導活性を示す低酸素応答プロモーターを用い低酸素細胞のみで環状型Lucの発現を誘導する。この方法は環状型Lucを低酸素領域内にあらかじめ多量に蓄積し,アポトーシスが引き起こされると同時にカスパーゼ3の活性化により多量のLucが再構成され,高い発光値が得られるという利点を有する。環状型Lucの機能確認は,1)アポトーシス誘導試薬濃度変化による発光値の変化,2)カスパーゼ阻害剤による発光値の変化を測定し評価をおこなう。また3)酸素濃度変化による発光値の変化とin vitroでのイメージングをおこない,低酸素環境下での環状型Lucの機能解析を行う。さらに4)アポトーシス誘発細胞の頻度と発光値の関係を評価し,発光値に関する基礎データの収集をおこなう予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の推進方策で記載したように,次年度ではin vitroでの抗がん剤によるアポトーシス誘発細胞の頻度と化学発光値の関係を評価する予定である。このため,消耗品購入予定の研究費をアポトーシス細胞を検出する機器の購入費用に変更する予定である。
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