研究課題/領域番号 |
24591849
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
鍵谷 豪 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (30524243)
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研究分担者 |
小川 良平 富山大学, その他の研究科, 講師 (60334736)
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キーワード | がん幹細胞 / 低酸素領域 / アポトーシス / 可視化 |
研究概要 |
がん幹細胞とは,正常組織中に存在する幹細胞同様に,腫瘍内で自己複製能と多分化能を併せもつ未分化な腫瘍細胞である。この細胞は,幹細胞用形質を保つため低酸素誘導因子HIFを介し,Oct4,Nanog等の幹細胞マーカーやNotchシグナルを活性化する。放射線や抗癌剤はDNAを標的とするが,この細胞は低酸素環境である幹細胞ニッチに存在することと,その低い細胞分裂頻度のため,これら治療に対し抵抗性を示し,再発の原因として問題視されている。つまり,HIF活性領域(低酸素領域の一部分)でのアポトーシスを可視化するシステムは,がん幹細胞を標的とする薬剤を生体レベルで非侵襲的に探索することを可能にする強力なスクリーニングシステムであると考えられる。我々は,このシステム構築を目的とし,昨年度はタンパク分解促進配列であるNDSを応用したアポトーシス可視化システムを目指した。その結果,アポトーシス細胞のみで化学発光するシステムを構築し,in vitro系での可視化に成功した。しかし,その発光値上昇は抗癌剤添加12時間後であり,マクロファージによる生体内アポトーシス細胞の貪食処理過程が短時間に行われることを考慮すると,このシステムを用い生体内アポトーシスの可視化は困難であると考えられた。このため,今年度は小澤らが開発したプロテインスプライシングを応用したアポトーシス可視化システムを構築し,また,このシステムを低酸素応答エレメント(HRE)で制御するHIF応答型に改良することで,HIF活性領域内のアポトーシス細胞の可視化を試みた。その結果,HIFが活性化する低酸素分圧下,抗癌剤添加1.5時間後と早い時間から強い発光を確認し,NDSによる可視化システムの問題点を克服した。さらに,構築したHIF応答型アポトーシス可視化システムの生体腫瘍内機能評価のため,このシステムを発現する安定株の構築を試み成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロテインスプライシングとは,ポリペプチドのインテインが取り除かれエクステインが連結する反応過程である。小澤らは,この現象を応用しルシフェラーゼ(Luc)のNとC末端を結合,その結合間にカスパーゼ3(Casp3)の認識配列,DEVD配列を挿入した環状型Lucを構築し,アポトーシス細胞の可視化を試みた。立体構造変化により環状型Lucの発光値は低いが,Casp3によりDEVDが切断させることで活性の高いLucが再構成し,アポトーシス細胞の可視化に成功した。我々は,この可視化システムをHIF応答型に改良することでHIF活性領域内のアポトーシス細胞を可視化できると考え,今年度,環状型Luc可視化システムの構築とこのシステムを制御するHIF応答型プロモーターの最適化,及びシステムの発光特性評価,さらにこのシステムを細胞内に保持した安定発現株の構築を試みた。HIF応答型プロモーターに搭載するHRE数の最適化に関しては,その数を4,6,12と変化させたベクターを構築し,低酸素分圧下抗癌剤によりアポトーシスを誘発し,最も高い発光量を示すHRE数の探索を行った。その結果,6つのHREを挿入したベクターの低酸素分圧下抗癌剤添加群の発光は4つまたは12つHREを挿入したベクターと比較し強く,環状型Lucを制御する最適なHRE数と考えられた。また,プロモーター内のTATA boxをCMVプロモーターコア配列に置換することで,より発光量の高いシステムへの改良を行った。このHIF応答型アポトーシス可視化システムは,抗癌剤添加1.5時間後と早い時間で十分な発光値を示し,NDS可視化システムの問題点を克服した。さらに,エピソーマルベクターを用いこのシステムを細胞内に保持した発現株の構築に成功した。これは,システム確認の最終段階である生体腫瘍内でのシステム機能評価の段階であり,実験進行は計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
HIF応答型アポトーシス可視化システムを一過性に発現する細胞株を用い,抗癌剤添加後の発光値変化,酸素濃度変化による発光値変化,またカスパーゼ3阻害剤による発光変化等の特性評価は確認済みである。エピソーマルベクターを用いHIF応答型アポトーシス可視化システムを細胞内に安定に保持した発現細胞株においても,同様な測定をおこない発光値変化を評価し,同様な機構が働いていることを確認する予定である。この確認実験と同時進行で,HIF応答型アポトーシス可視化安定細胞株を播種した担癌マウスを作製し,低酸素領域のみで殺細胞効果の増強が知られているティラパザミン(TPZ)を用い,生体腫瘍内低酸素領域のアポトーシスの可視化を試みる。また,これら腫瘍から病理切片を作製し低酸素細胞領域でアポトーシス細胞が増加しているのかpimonidazoleやTUNNEL染色等を用い評価する予定である。さらに,低酸素細胞領域のみで殺細胞効果を増強する新規抗癌剤を,in vivo及びin vitroの両方の系を用い探索予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入した装置、及び物品で予定した研究項目内容を推進することが出来たため。 次年度の物品費として使用予定である。
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