本年度も、前年度に引き続いて京大原子炉の運転が延期されたため、予定されていたヒアルロン酸ナノパーティクルによる中性子照射実験を全く施行できなかった。そこで、本年度はホウ素担体の追加オプションとして、ミセルとリポソームにそれぞれステアリン酸とBSHを化学結合させたホウ素化合物を組み込んだキャリアを新規調製した。 ステアリン酸-BSH化合物は架橋剤N-(2-Aminoethyl)maleimide Hydrochlorideを適正条件で反応させて調製した。これを用い、ミセルはPEG界面活性剤と適宜混合して、超音波処理によって調製した。リポソームはハイドレーション法でDSPCとDMPE-PEGを構成脂質に持ち、10~40%のステアリン酸-BSH化合物を有するリポソームを調製した。これらのボロン濃度の測定はICP-AESによって行った。 新規調製したボロンミセルはユニークな特徴を持ち、ミセルの界面活性作用により細胞導入のためのリガンドを結合していない状態でもBSH溶液群と比較して約8.5倍のB(10)細胞内取り込み量がみられた。しかし、ミセル状態では毒性が高く、製剤としての安定性が低かった。一方で、ボロンリポソームに腫瘍細胞に対する選択性を有するBuforin由来の腫瘍細胞選択型の細胞透過ペプチドBR2を結合したところ、ヒト正常繊維芽細胞にはほとんど取り込まれなかったが、マウスメラノーマB16F10細胞には特異的な強い取り込みが観察された。毒性もBNCT施行に十分支障がない微弱なものであり、ベシクルの安定も良好であった。腫瘍細胞選択型細胞透過性ペプチドとホウ素担体との組み合わせは、BNCTにおいて有用である可能性が示唆された。
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