膵臓癌は悪性度が高く、全体平均では5年生存率がわずか10-20%で、年間日本では3万人近く死亡している。近年、重粒子線による術前照射やGemcitabine併用試験では長期生存例が増えており、良好な治療成績が得られているが、そのメカニズムについては未知である。本研究で、我々はPK45やPANC1ヒト膵臓癌細胞株を用い、超高速セルソーターにてCD44+/CD24+、CD44+/ESA+細胞を分離収集後、その癌幹細胞性質をcolony、spheroid形成能や腫瘍形成能の違いから確認した。そして、これら癌幹細胞に対して、X線、炭素線単独或はGemcitabine併用によるcolony、spheroid形成能、DNA損傷、移植腫瘍に対する増殖抑制や治癒率の違いについて比較検討したところ、炭素線はX線照射に比べやはり2倍以上強く(RBE=2.23-2.66)癌幹細胞を殺傷すること認められた。癌幹細胞の割合はX線、炭素線照射単独に比べ、Gemcitabine併用時に著しく上昇したが、colonyとspheroid形成能は顕著に低下した。また、X線に比べ炭素線照射24時間後でより多くのDNA損傷マーカーgammaH2AX fociの残存が認められ、Gemcitabine併用時はさらに増加した。 移植動物実験の分子病理学的所見から、高線量(35Gy)炭素線単独、或は比較的低線量(25Gy)にGemcitabine併用では炭素線25Gy単独照射に比べ腫瘍細胞の繊維化、空洞化が顕著であり、X線60Gy照射に比べ著しく膵癌幹細胞を殺傷することでより強い腫瘍増殖抑制や高い治癒率が認められた。これは現在、放医研で進行膵癌に対して炭素線とGemcitabineとの併用治療を行っており、2年生存率が54%と今まで世界各施設の報告より2倍以上高い生存率を得ており、我々の結果はある程度この臨床データを基礎的研究からその分子機構を解明することができた。
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