研究課題/領域番号 |
24591867
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田村 純人 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (30401053)
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研究分担者 |
菅原 寧彦 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (90313155)
山敷 宣代 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (90420215)
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キーワード | 肝移植 / 脳死肝移植 / 生体肝移植 / 臓器移植 / C型肝炎 / 肝細胞癌 / 胆汁鬱滞性肝硬変 / 臓器提供 |
研究概要 |
脳死下の提供による移植施行の時間的予測は得られず、待機中死亡は深刻な問題であることに変化はない。そして、健康な生体に侵襲を加えざるを得ない生体肝移植が依然として時間的予測は正確に得られる手段であることにも変わりはない。本研究の目的は、国民の理解と信頼の下に肝移植医療が発展するために、現在までの経験症例を基に、客観的な尺度を用いて最適な脳死肝移植待機、生体肝移植の施行の選択肢を示すことのできる指針を提案すること、である。 平成24年度~26年度の3年間での進展を念頭に、研究には大きく三段階を設けた。1.当施設の肝移植症例の解析:当施設に於いて施行した肝移植患者の生存率、移植片生着率解析、原病の再発率に加え、時系列解析を行う。2.得られた知見を生体肝移植ならびに脳死肝移植の別に整理の上比較検討し特に生存利益に主眼を置いた考察を加え、治療選択指針の原案を作成する。3.当施設の解析で得られた治療選択指針の原案を、本邦の生体肝移植症例ならびに脳死肝移植症例の全国データに適用した解析を行い、妥当性を評価する。 平成25年度は、一年目の平成24年度に引き続き主に1.の段階において、C型肝炎、肝細胞癌、胆汁鬱滞性肝硬変を来たす疾患、の3疾患領域を対象に解析を行った。以下、年度内の研究実績の概要を記す。C型肝炎肝硬変:当科の経験にIL28遺伝子変異の新知見を加えて解析し英文論文として発表した。肝細胞癌:当科の経験と本邦の現状について学会発表を行った。また、移植後の予後因子について詳細な検討を加え、英文論文として発表した。胆汁鬱滞性肝硬変について:本邦での移植症例を参考に時代による治療背景の変遷を検討し、成果を英文論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究を立案していた段階より現時点に至るまで諸家の予想は大きく裏切られ、脳死下提供は伸び悩み、心停止下の臓器提供に至っては4割以上減じるという事態となった。 改正脳死法案の施行に伴い、脳死下の提供は増加すると考えられ、生体移植の停滞も相俟って大きな期待が寄せられた。事実、米国の年間6000例超には遠く及ばないものの、脳死下肝移植は年間平均5例程度であったものが、ようやく、年間40例程度に増加した。しかし、残念ながら、欧米諸国はもとより、年間360例以上脳死下肝移植を施行している隣国韓国に大きく後塵を拝している現状に変わりはない。臓器提供に対する社会全体の受け入れの指標として、脳死下提供に加え、心停止下の提供数が挙げられるが、後者は4割減じており、内閣府の国民の意識調査による移植医療をサポートする国民の一般意識と相いれない結果となっている。常時日本臓器移植ネットワークの待機リストには400人以上の待機患者がリストアップされている事態に変わりはない。 現状では改正以前と同様、本質的に劇症肝炎以外の症例に臓器が提供される機会は小さく、解析データ蓄積のために症例の収集を継続する必要があるといえる。また、肝移植は本来、周術期合併症等で失う症例もあり、生存解析で様々な因子を得るきっかけとなるが、当科の21例の経験では、生体肝移植の経験が有効であるためか、いまだ一例も失っておらず、5年生存率100%を維持しており、予後解析自体を施行する時期に至っていない状態である。脳死移植と生体移植の比較解析により、意義ある指針を見出すには、今後の経験のさらなる蓄積が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように症例蓄積は脳死下ドナーの増加という社会的かつ不確定な要因に期待せざるを得ない部分があるものの、決して後戻りしているわけではなく、改善し得る余地は認められ、また、学会並びに施設間の協力体制も維持されているため、今後の研究の推進方策に関して当初の計画より現時点での大きな変更の必要はないと考える。 引き続き、今年度も当初の研究計画に従い、当施設の肝移植症例を対象に様々な予後因子の解析を新たな症例の蓄積と共に継続し、さらに、得られた知見を生体肝移植ならびに脳死肝移植の別に整理の上、比較検討し、特に生存利益に主眼を置いた考察を加えることを目標とする。ただし、C型肝炎はDAA製剤の導入により、肝細胞癌は分子標的薬の導入により、急速に治療ガイドライン自体が変化していく真っただ中にあり、常に最新の情報を収集するとともに、適切かつ柔軟な対応を心がけることが大切であると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
外国出張旅費に充当するものの一部が招待講演となったため出費の必要が回避され、研究室環境整備においても電算機器の使用延長や図書・統計ソフトウェアなどは施設内汎用対象物を活用し、経費削減に努め、また、人件費として計上していた対象業務を外注することなく共同研究の範囲内で処理し得たことが大きい。研究計画自体の変更によるものではない。 昨年度に続き、研究成果の英文論文化、権威ある国内外学会での発表ならびに情報交換に積極的に取り組む予定である。これに従い、海外出張費用も併せ、学会参加・旅費を100万円程度ならびに通信・情報処理費用は20万円程度を見込む。一方、人件費・謝金、英文校正費用等は能力の高い研究スタッフの努力により削減に成功しており、引き続き当初の必要額を下回ると考える。また、物品費用については、研究グループ内での節約、共有化に努め、相応の負担で対応が可能であると予想するものの、専用電算機器や記憶媒体、保護ソフトウェアの更新が有用であるかを検討し、場合によっては重点的な配分を考慮する必要があると考え50万円程度を見込む。研究業績の積極的な発表のための英文校正等で20万円程度を見込む。
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