研究課題
近年、アルコール性肝不全に対する肝移植適応評価の機会が増加している。肝移植後の再飲酒による肝不全再発は、医学的にも社会的にも大きな問題で、術前から心理社会的側面を含む多面的管理が重要である。従来、アルコール性肝不全に対する肝移植の適応は最低6ヶ月の断酒期間が必要とされてきたが、国内外を含めて心理社会的適応基準は確立されていない。本研究はアルコール性肝不全に対する新しい心理社会的適応基準を設けて、肝移植適応の評価法を開発し、確立することを目指すものである。アルコール性肝不全と診断された患者に対し、以下の基準を用いて肝移植の適応を評価する。【アルコール性肝不全に対する肝移植の新しい適応基準】(ABC基準をすべて満たすことが必要)A基準(必須):断酒期間6ヶ月、将来にわたる断酒を宣言できる。B基準:家族の理解・援助・移植の同意、就労中またはその準備がある、低い再飲酒リスク(HRARスケール2点以下)、精神疾患がない、診療アドヒアランス確保。HRARスケール:High=Risk Alcoholism Relapse Scale (0-6点)、C基準:適応判定困難例は1ヶ月後に再度判定。上記基準を満たした患者に対して現病歴、生活歴、家族歴を聴取後、標準化した質問紙法及び精神医学的評価に基づいた評価を行う。以上のように、本研究はアルコール性肝不全に対する新しい適応基準を設けて、肝移植適応の評価法を開発し、確立することを目標としているが、これまでの研究内容をまとめて論文化している。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、アルコール性肝不全に対する新しい適応基準を設けて、肝移植適応の評価法を開発し、確立することを目標としている。現在までの結果を、日本外科学会、日本肝移植研究会、日本移植学会、アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会等で報告し、その成果をまとめて論文化した。
対象患者200名をめどに症例の集積を続ける。移植実施症例と移植未実施症例の比較検討を行い、さらに様々な観点から統計解析を行う。移植未実施者の症例数が多いことが予想されるため、B基準(例:HRARスケール)と各種評価基準との基準関連妥当性または併存妥当性について検討する。現在も新規患者が訪れているため、目標症例数200は到達可能な目標である。研究対象者が少ない場合、名古屋大学の関連する複数の総合病院から適宜協力を得る予定である。また、本研究の成果は、国内外の雑誌、学会などで発表を行い、さらにウエブサイトでの研究成果を公表し、プレスリリースにより国民に向けて研究成果を発信していく予定である。
アルコール性肝不全に対する肝移植治療における新しい心理社会的適応基準を設けて、それを用いて解析を行っているが、データの集積とその解析に予想以上の時間を要したため。
本研究は、名古屋大学移植外科と精神科の共同研究となる。定期的に会議を開催して情報の共有に当たる。データ解析用ソフト、記憶媒体、学会発表や論文作成のための諸費用、国内外のミーティング及び学会参加のための旅費、データ整理及び解析のための研究補助や専門的知識の提供に対する謝金などが、今研究を遂行するために必要不可欠であり、次年度もこれらに使用予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (1件)
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