研究実績の概要 |
我々は、ヒト肝臓内に局在する未成熟natural killer (NK)細胞に、強い抗腫瘍分子(TNF-related apopyosis-inducing ligand:TRAIL)を誘導する方法を確立し、肝臓移植後のドナー肝由来NK細胞補助療法の臨床実施により癌無再発生存率の有意な改善を得た。しかし、末梢血由来の成熟NK細胞からTRAIL分子を誘導することは、現段階では不可能である。本研究は、ヒトCD34+造血幹細胞およびiPS細胞から未成熟NK細胞を効率的に分化誘導する技術を開発し、抗腫瘍活性を評価することを目的とする。昨年度までに、CD34+造血幹細胞からの未成熟NK細胞の分化誘導法を確立し、TRAILおよびNKG2D、DNAM-1などの抗腫瘍分子の表出とともに、肝癌細胞株(Huh-7,HepG2)に対する抗腫瘍活性を確認した。本年度は、iPS細胞からのNK細胞の分化誘導を実施した。ヒト線維芽細胞由来のiPS細胞株を用いて、M210-B4 (マウス骨髄線維芽細胞)とともに24日間培養し、造血幹細胞(CD34+CD45+)に分化させ、その後、磁気ソーティング法でCD34+細胞を分離後、AFT-024 (マウス胎児肝線維芽細胞)、サイトカイン (IL-15, IL-7,SCF, Flt3-L, IL-3) とともに30日間培養するとNK細胞に分化した。誘導したNK細胞は、肝臓内NK細胞やCD34+造血幹細胞由来NK細胞と同様に高いIFN-γ産生能を示したが、抗腫瘍分子であるTRAILやDNAM-1の表出はやや弱く、CD16の表出が高い末梢血NK細胞フェノタイプに近い成熟型NK細胞が誘導されているものと考えられた。肝癌腫瘍株(HepG2)に対する細胞試験では、細胞障害性はCD34+由来NK細胞に比べ抗腫瘍効果は弱い傾向を認めた。今後、機能分子の表出を促進する工夫を要するものと考えられる。 臨床試験における解析では、肝癌症例に対する肝臓移植後では、NK細胞移入により抗ドナー応答性が促進され得るかをリンパ球混合試験によって評価した。その結果、NK細胞はアロ応答性T細胞には影響を示さないことがわかった。
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