【目的】消化器癌に対する新たな癌治療法の開発を目的として,腫瘍免疫に関わるT細胞不活化経路のいくつかの候補分子の検討を行った. 【方法・結果】具体的には,新たにETBR(Endothelin B receptor),HVEM(Herpes virus entry mediator)等に着目し,膵癌,食道癌等の難治癌を含む種々の消化器癌において,それらのタンパク腫瘍発現の臨床的意義およびメカニズムの解析を包括的に行った.これまでに得られた多くの有意な成果の一部として,食道癌におけるETBR発現を免疫染色にて検討した結果,臨床病理学的因子および予後と有意な関連が認められた.また肝細胞癌および大腸癌におけるHVEM発現を免疫染色により検討した結果,肝細胞癌における検討では,HVEM発現は正常肝組織にはほとんどみられず,癌細胞に限定的であることが明らかとなった.また肝切除後再発や予後との有意な相関がみられ,多変量解析でも独立予後因子であることが判明した.さらに腫瘍内浸潤T細胞との逆相関がみられ,腫瘍免疫にも有意な関与を果たしているものと思われた.また大腸癌における検討では,発癌過程(いわゆるAdenoma-Carcinoma Sequence)に関与している可能性が示唆され,肝癌同様に予後や腫瘍免疫とも関与していることが明らかとなった. 【考察】今後新たな治療標的分子となり得る可能性が示唆された.さらに一連の研究成果を発展させ,新たな癌治療法の開発を進める予定である.臨床応用に向けて,化学療法と併用の治療効果の検討や,バイオマーカーとしての有用性を検討するための患者血清における各分子タンパク発現の検討を計画中である.
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