研究課題
極めて予後不良といわれる劇症肝不全は、肝移植以外には有効な治療法がない。本研究では、各種炎症性疾患で治療標的として注目されている核内タンパクHigh mobility group box-1 (以下HMGB1)とその可溶性受容体(sTLR)に着目し、遺伝子治療、細胞移植、体外循環治療などの特殊技術に絡め、研究・開発を進めてきた。さらにHMGB1国際的研究ネットワークの中で先導的拠点の構築を目指している。sTLRは生体内で生理的に産生されるタンパクであり、臨床応用可能かつHMGB1阻害に重要なkey mediatorと位置付けられている。我々は大量sTLRがHMGB1による細胞内炎症シグナル伝達を阻害するという仮説の元、研究を継続している。これまでsRAGEを産生するアデノウィルスベクターの作成を試みてきたが、難渋しておりいまだ完成に至っていない。その代わりにHMGB1阻害作用を持つ別のタンパク:HMGB1 Aboxを産生するアデノウイルスベクターの作成に成功し、ラット初代培養肝細胞への導入に成功した。さらにマクロファージから産生される炎症性サイトカインTNFαを、細胞に感染させることで産生されたAboxタンパクが抑制されることを示した。そしてラットの薬剤誘導性急性肝不全モデルにおいて、アデノウイルスベクターA boxの導入によりさまざまな採血パラメータや生存率が改善することを示してきた。
3: やや遅れている
上記で述べたように、これまでsRAGEを産生するアデノウィルスベクターの作成を試みてきたが、難渋しておりいまだ完成に至っていない。具体的にはsRAGEをエンコードしたアデノウィルスベクター(Adex-sRAGE)自体は完成しているものの、細胞に感染させてもウィルスが増えない状況であり、研究を進めることができないでいる。しかし、上記に記載したように既にコントロール群(Adex-LacZ)及びHMGB1阻害作用を持つHMGB1 Aboxタンパクをエンコードしたアデノウィルス(Adex-Abox)は完成し、Adex-Aboxの投与によりラット急性肝不全の予後改善効果を示している。このため、Adex-sTLRが完成すれば、その後の実験はこれまで同様の手法で良いため、研究の達成は十分可能と考えている。HMGB1 Aboxが生体内で生理的に産生されることのないタンパクであるのに対して、sRAGEは生体内で生理的に産生されるタンパクであるため、Adex-sRAGEの方が、Adex-Aboxよりもより高い予後改善効果を示すことが期待される。
既にアデノウィルスベクターLacZ(Adex-LacZ)を用いたコントロール群及びHMGB1阻害作用のあるHMGB1 Aboxをエンコードしたウイルスベクター(Adex-Abox)群での実験が終了し、ラットの薬剤誘導性急性肝不全モデルにおいて、Adex-A boxの導入によりさまざまな採血パラメータや生存率が改善することを示してきた。現在は同様にHMGB1阻害作用のある、sTLR及びsRAGEをエンコードしたアデノウイルスを作成中である。HMGB1 Aboxが生体内で生理的に産生されることのないタンパクであるのに対して、sTLRとsRAGEは生体内で生理的に産生されるタンパクであるため、Adex-sTLR及びAdex-sRAGEの方が、Adex-Aboxよりもより高い予後改善効果を示すことが期待される。また、ウイルスベクターを生体に全く投与しない治療法を開発する観点から、sTLR産生性肝細胞をリアクターに内蔵し、体外循環下に使用する方法も検討している。
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